新婚旅行、即離婚入籍した翌日、私・黒沢文乃(くろさわ あやの)は二枚の航空券を握りしめ、空港で新婚の夫・黒沢修也(くろさわ しゅうや)を待っていた。
やがて彼が姿を現した。……ただし、一人ではなかった。
修也のすぐ後ろには、幼なじみの西村雨音(にしむら あまね)が立っていた。
「文乃……雨音がさ、つい最近失恋したばかりで」
修也は私の顔色をうかがいながら、言い訳めいた口調で続ける。
「一人で落ち込んでるみたいだから、気分転換に一緒に連れて行ってやりたくて」
雨音は、私とまったく同じデザインのビーチワンピースを身にまとい、申し訳なさそうに微笑んだ。
「文乃さん、ご迷惑じゃないですか?ただ、新婚さんの幸せ、少しだけ分けてもらえたらなって……」
その瞬間、修也の手に握られている航空券が目に入った。それは、私の隣の席のものらしかった。
座席番号は――16B。
私が16A、修也が16C。
つまり、彼は雨音を、私たち夫婦の間に座らせるつもりだったのだ。
その場に立ち尽くしたまま、足元から一気に怒りがこみ上げ、頭の奥がじりじりと熱くなる。
私は修也の腕をつかみ、人目を避けるように脇へ引き寄せ、声を落とした。
「……その子を、今すぐ帰して。それが無理なら――私が帰る」
修也は露骨に困った表情を浮かべ、ため息混じりに言った。「文乃、そんな言い方するなよ。ちょっと大人になれって。
雨音がさ、一人で家にいるのが怖いって言うんだ。だから俺たちと一緒にいれば、少しは気が紛れるかなって……
それに、俺と雨音は小さい頃からの付き合いだし、旅行くらい――」
「もういい」
私はきっぱりと遮った。
「帰ってもらわないなら、今すぐ離婚届を出しに行く」