愛あるところ、すべては虚妄私・篠原美月 (しのはら みづき)と藤崎彰人 (ふじさき あきひと)は大学時代に出会い、恋に落ちた。
卒業後、私たちはごく自然な流れで結婚した。
翌年、藤崎遥斗 (ふじさき はると)が生まれた。けれど、不幸にも聴力を失うという後遺症が残ってしまった。
それでも、私はその運命を甘んじて受け入れ、彰人が築いてくれた幸せな世界に、満ち足りた想いで浸っていた。
けれど、ある日突然、私の耳が再び聞こえるようになってしまったのだ。
彰人が部下の女性と睦言を交わす声。
遥斗が、誕生日のパーティで「ママなんて、永遠にいなくなればいいのに」と願う声。
それらを聞いてしまった瞬間、私の心は音を立てて崩れ落ちた。
再会は、アズマニア共和国。
遥斗がみすぼらしい姿で駆け寄り、泣きながら私に抱きついてこようとした時だった。
私はその手をすり抜け、そばにいた別の子供を愛おしそうに抱きしめると、平坦な声で言い放った。
「私はあなたのママじゃない。今度は……私があなたを捨てる番だ」