愛の果ては、他人でした友だちとの飲み会。
私は沢村結衣(さわむら ゆい)。テーブルの向こう側で、夫の友人、相原亮太(あいはら りょうた)がふいにフランス語を口にした。
「なあ、お前が外で囲ってるあの子さ、もう妊娠二ヶ月だろ。どうするつもりなんだ?」
その問いを向けられた相手、そして私の夫でもある沢村誠(さわむら まこと)は、ほんの少し口元を上げただけで、顔色ひとつ変わらなかった。「外で囲ってるあの子」というのは、恐らく坂井花音(さかい かのん)のことだ。
まるで聞き慣れた天気の話でもしているみたいに、私の皿に刺身を乗せてくる。
その手つきのまま、同じくフランス語でさらりと言った。
「ゆいは子ども嫌いだからさ。花音にはちゃんと産ませて、子どもごと海外に出すつもり。俺の跡継ぎってことで取っておくよ」
噛みしめたエビは、もう何の味もしない。ただ頬を伝うものだけが、やけに熱い。
「結衣、どうした?」
すぐ隣で、慌てた東国語の声が響く。そっと涙を拭ってから、私はいつもの笑顔を無理やり貼りつけてみせた。
「このピリ辛ソース、ちょっと効きすぎたみたい」
本当は、しょっぱい醤油の味しかしない。
辛いのは舌じゃなくて、胸の奥。
涙の理由はただひとつ。
──私は、フランス語が分かる。