出会わぬままいられたなら藤沢家の長男の妻――藤沢沙織(ふじさわ さおり)がまた調子を崩したとき、私はまた離婚になるのだとわかった。
そっと目を閉じて心の中でつぶやく――「これで九回目」
藤沢和幸(ふじさわ かずゆき)はこめかみを押さえ、申し訳なさそうに言う。
「由依、兄があまりにも突然亡くなって、沙織とお腹の子を残したままだ。俺が放っておけるわけがないんだ。
でも安心してくれ。子どもが生まれたら、すぐにまた籍を入れよう。今度こそ、二度と離れたりしないから」
私はただ黙っている。
だって、このセリフはもう八回も耳にしたんだから。
最初の離婚は、和幸の兄が急に亡くなり、沙織が取り乱したのがきっかけだった。
当時、彼女は妊娠していて、和幸は彼女を落ち着かせるため、いったん私と離婚し、後でまた夫婦に戻ろうと言い出したのだった。
それから九か月の間に、私たちは八度も結婚と離婚を繰り返した。
周りからは「八度離縁の名家」なんて揶揄され、自分でもさすがに馬鹿げてると思う。
離婚届の受理証明書を受け取ったとき、隣の職員がそっと尋ねてくる。
「次はいつ頃、ご再婚の手続きにいらっしゃいますか?」
私は淡々と答える。
「もう次なんてありません」