私たちの愛は、とっくに幕を閉じていた夫・須藤悠一(すとう ゆういち)の愛人・松岡佑子(まつおか ゆうこ)が妊娠したのを発覚した。
彼の浮気を初めて知った時、私・黒崎静華(くろさき しずか)は狂ったように、家中のものを叩き壊して回った。しかし、今回の私はそうしなかった。
家の骨董の花瓶が高価すぎる。それを壊す気にはなれなかった。
家を出て、通りかかったケーキ屋で、悠一が佑子とベビー用品を買っている姿を偶然見かけることで、食欲など失せることもあった。
ところが、今日のイチゴケーキは、やけに美味かった。
寝る間際、大量に睡眠薬を飲みたくなる衝動が込み上げてきた。
きっとまた、どうしようもなくなり、あのふたりを呪いながら、一番残酷な方法で自分を終わらせようとするのだと思っていた。
そんな時、カウンセラーからメッセージが届いた。
外に出て、できるだけ歩くように、と何度も念を押す内容だった。
だから私は南の島へ飛んだ。
陽の光を浴び、潮風に吹かれながら、まる二十七日間、あのふたりのことを忘れていた。
悠一からの電話が鳴るまで。
「離婚の話、どう考えた?戻ってきて離婚届を出そう。
でもな、安心してくれ。これはあくまで仮の話だ。佑子が産んだら、すぐによりを戻す。お前が知っての通り、俺が愛してるのはいつだってお前だけだ」
彼に言われて、そういえばそんな話もあったな、と思い出した。
でも、今回はもう、疲れてしまった。
彼らとこれ以上、関わりたくなかった。
潮風を受けながら、私はほとんど考える間もなく口を開いていた。
「ねえ、いっそのこと、本当に終わりにしない?」