UTAUのファンフィクションで特に印象深いのは、『重音テト』と『波音リツ』の関係性を描いた『Silent Duet』という作品だ。最初はライバルとしてぶつかり合っていた二人が、音楽を通じて次第に理解し合い、最後には深い絆で結ばれる過程が繊細に表現されている。作者はキャラクターの内面の変化を丁寧に追いかけていて、テトの頑な心がリツのひたむきさによって解きほぐされていく様子に胸を打たれる。特に、二人が初めて共作した曲を完成させるシーンは、緊張感と感動が入り混じっていて、何度読んでも涙が出そうになる。
もう一つ挙げるとすれば、『鏡音リン・レン』を主人公にした『Twinned Shadows』も秀逸だ。双子という設定を活かし、お互いを疎ましく思いながらも、
離れることができない複雑な感情が描かれている。レンがリンを過保護にしすぎるあまりに衝突が起きるが、最終的にはお互いの存在が不可欠だと気づく展開がたまらない。特に、レンがリンを守るために自分を犠牲にしようとするクライマックスは、ファンならずとも心を揺さぶられるはずだ。この作品は、関係性の変化だけでなく、成長物語としても深みがある。
UTAUのファンフィクションは、キャラクター同士の化学反応を描くのに最適なテーマが多い。『結月ゆかり』と『紲星あかり』を主役にした『Moonlit Vows』では、最初はお互いをまるで
異世界の住人のように感じていた二人が、共通の目標を見つけて接近していく。ゆかりのクールな態度とあかりの熱意がぶつかり合い、やがて補完し合う関係になっていく過程がたまらない。特に、あかりがゆかりのために深夜の公園で歌をプレゼントするシーンは、ファンフィクションならではのロマンチックな演出だ。