翻訳の微妙な差分を見ると、感心する箇所と首をかしげる箇所が両方あって面白い。僕は原文のリズムや話者の立ち位置を重視してチェックすることが多く、英語版で「ニュアンスが正しく伝わっている」と判断するためのいくつかの基準を持っている。
まず、話者の語尾や敬語、砕けた言い回しが英語でどう表現されているかを見て、キャラの関係性が保持されているかを確認する。たとえば『風の谷のナウシカ』のような作品では、主人公の穏やかさや決意が台詞の長さや語彙選択に現れることが多い。英語版が単に意味を変換するだけでなく、感情のトーンや意図を反映している場面があると「正しく解っている」と感じる。
次に、省略や暗示の扱いをチェックする。日本語は主語を落とす文化があるので、英語で主語を補ったときに意図が変わっていないかを確認する。さらに、文化的参照やことわざを直訳せず
同等の英語表現に置き換えている箇所は、ローカライズの腕が良い証拠だと私は思う。そうした細かい点を積み重ねて評価していくと、翻訳チームが原作の芯を理解しているかどうかが見えてくる。最終的には、台詞を読んだときにキャラの立ち姿が頭に浮かぶかどうかで判断している。