猟犬はただの脇役という枠を超え、物語の緊張と恐怖を層ごとに深める装置になる。『バスカヴィル家の犬』のように、獰猛さと超自然のあいだを揺れる存在として描かれるとき、猟犬は読者の恐怖の対象を具象化し、誰もが抱く根源的な不安──理性で説明できないものへの畏怖──を呼び覚ます。
捜索と追跡のメタファーとしての猟犬は、登場人物の内面を映す鏡にもなる。追いつめられる側、追う側、双方の心理が犬の吠えや足音のリズムを通じて可視化され、私の視線は場面ごとに変わっていく。具体的な証拠よりもむしろ、猟犬が残す痕跡や嗅覚の描写が、不可避の運命や宿命的な連鎖を暗示してくるのが面白い。
結末に向けて猟犬が果たす機能は二重だ。物語の外在的な脅威を提供することでプロットを牽引し、同時に倫理や暴力、復讐といったテーマを内面的に掘り下げる。そうした働きがあるからこそ、犬の存在が単なる動物描写では済まされず、物語そのものの主題を強化するのだと感じる。