音のかたちで伝えるなら、僕はまず“見えない支え”という感覚に寄り添うところから始めるだろう。'
お蔭'というテーマは直球の感謝だけでなく、背後にある静かな力、気づかれない優しさ、因果や恩の連鎖といった複層的な意味を持つから、音楽も単純なメロディだけで終わらせたくない。テーマを一つの旋律で提示し、それを編み直していく手法を取り、聴き手が場面ごとに「ああ、これが『お蔭』だ」と腑に落ちるようにするのが理想だ。
具体的には楽器編成と音色で物語性を作る。例えば木管や弦の柔らかいアンサンブルを基調にして、琴や尺八のような伝統楽器をアクセントに入れることで、日本語のニュアンスに合う「奥行き」を出す。ピアノは透明なアルペジオで薄く和音を支え、チェロやコントラバスが低域で温かく抱き締めるような役割を果たす。リズムはあえて強調しすぎず、ゆるやかな七拍子や不規則な分節を使って「日常の中に溶け込む恩」を音で表す。旋律は最初は短い断片(モチーフ)で提示し、場面が進むごとに和声や編曲を変えて拡張していく。例えば子音を伴うような短いモチーフが、やがてハーモニーで広がり合唱的な温かさになる――そういう変化が沁みる。
サウンドデザインの細部も重要だ。フィールド録音を取り入れて、生活音や小さな機械音、紙の擦れる音などを背景に薄く混ぜると「誰かの営み」が常にある感じが出る。リバーブは空間を示す道具として用い、遠景のサウンドは長めのリバーブで包み、近景は乾いた音で親密さを出す。ボーカルを使う場合は言葉をはっきりさせず、ハミングやコーラスのフォルマントで感情を伝えるのが効果的だ。ダイナミクスは物語の転換点でのみ大きく動かし、それ以外は細かなクレッシェンドとデクレッシェンドで心の動きを表す。
最後に構成の話。テーマは終盤で一つの和声に収束するのではなく、複数の視点を織り込んだ余韻を残して終えるのが好きだ。つまり、タイトルの意味する『お蔭』が単に与えられたものではなく、互いに支え合うことで成立していることを音で示す。小さなモチーフが最後にもう一度現れて消えていく瞬間が、聴き手に静かな納得感を与えるはずだ。こうして作られたサウンドトラックは、場面の背後にある見えない絆や感謝の輪郭を、音だけでそっと示してくれると思う。