あの場面を読み返すとどうしても胸がざわつくんだ。原作の細部と2003年版アニメ『鋼の錬金術師(2003年版)』との違いを並べると、まず物語の分岐点そのものが大きい。原作マンガでは父親の行為が物語の核心に繋がる伏線になっていて、
ニーナの存在は残酷さを示すための重要な要素として緻密に配置されている。一方で2003年版アニメは原作から早い段階で独自路線に入り、ニーナ関連の描写に時間を割いてキャラクターの心情描写を強める一方、後の展開や結末がアニメ独自の流れに合わせて変化している。
表現面でも差が出ている。原作は絵のコマ割りや台詞回しで読者に余韻を残す作りになっていて、ニーナの存在感は静かな恐怖として効いてくる。2003年版は映像メディアらしい演出で視覚的・音響的なショックを重ね、見ている側の感情を直線的に揺さぶる。細かい台詞の言い回しや周囲の反応、省かれた背景説明など、些細な違いが印象の重さを変えている。
最後に受け手としての感想を一つ。原作の冷徹な積み重ねと、2003年版の映像的衝撃はどちらも強烈で比べがたいけれど、ニーナという小さな存在が物語全体に与える意味の持たせ方が根本的に違うという点は押さえておきたい。どちらが好きかは好みの問題だが、どちらも心を抉る力があるのは確かだ。