桜貝を見つけるとどうしてもじっと見入ってしまう。最初にするのは、表面の色味と透け具合、それに縁の形を手で確かめることだ。自然の桜貝は淡いピンクが内側からにじむように出ていて、光を通すとほんのり温かい色合いになる。人工的に着色されたものは表面に色ムラや擦れた跡が残りやすく、近づいて見ると塗料の粒子やコーティング膜がわかることが多い。私はルーペで表面の微細な成長線(成長輪)を追い、そこに自然な波打ち方や均一でない厚みがあるかどうかを確かめる。
屋内で詳しく見るときは、非破壊の方法を優先する。光学顕微鏡で断面近くを見ると、天然の貝殻は有機質と炭酸カルシウムの層が規則正しく重なり、微細構造に特徴が出る。専門家はその層の組成を目で確認したあと、必要に応じてX線写真で内部の空洞や修復痕を調べる。表面の光沢が不自然に強ければ、紫外線を当てて染料やニスの蛍光反応を見ることもある。人工着色は蛍光を示す場合があるからだ。
最終的には経験と比較が決め手になる。博物館標本や信頼できる図譜の照合、同じ浜で採れる他の種との比較を何度も繰り返す。科学分析(結晶構造を調べるXRDや有機顔料のスペクトル解析)まで踏み込めば真贋はほぼ確定するが、実際のフィールド判断では見た目・手触り・微細構造の三点を押さえるだけでかなりの精度で見分けられると感じている。自然の持つ微妙な不均一さを読み取る訓練が何より役に立つよ。