昔から縁起物として扱われてきたことには、地域ごとの背景が色濃く出ている。僕の郷里では、
起き上がりこぼしが『厄を払って再起を助けるもの』という扱いを受けていて、祭りの屋台や家の飾りとして親しまれてきた。見た目の愛らしさ以上に、行動の象徴性――何度倒れても元に戻る――が人々の心に響くんだと思う。
記憶の断片をたどると、祖父母が「七転び八起きだ」と笑って置いていたのを思い出す。そこには単純な励ましだけでなく、生活の不確実さに対する日常的な対処法が込められている。飾りを贈る文化は、新しい門出や病気見舞い、商売繁盛の祈願など、様々な節目に適用されているように感じる。
地域工芸としての側面も忘れられない。土の質や彩色の仕方で意味合いが変わることがあり、作り手の祈りや願いが作品に宿る。僕にとって起き上がりこぼしは、ただの玩具ではなく、人々の希望や回復力を受け継ぐ小さなシンボルだ。