損傷の具合を冷静に見極めることが、修復の半分だといつも思う。僕の場合、まず外観を細かく写真に残し、ひび・塗装剥離・芯材の腐敗などをメモにして優先順位を決める。張り子の
起き上がりこぼしは紙層や膠(にかわ)系の接着が問題になりやすいので、乾式のソフトブラシでほこりを落とし、綿棒でごく薄い中性の溶液を試してから湿式クリーニングに移る。ここで無理をすると表面の顔料を溶かすから、必ず小さい目立たない箇所でテストする。
接合には可逆性を重視して、でんぷん系糊やメチルセルロースを薄めて使うことが多い。割れや欠損は裏打ち用の和紙と糊で補強してから、欠け部分を薄く成形パテで埋め、乾いたら表面を滑らかに整えてから着色する。着色は保存用顔料や水性アクリルを使い、周囲に馴染ませるように慎重に重ねる。最後に調整した重りを布袋や密閉容器に入れて内部に収め、転倒復元のバランスを確認する。
時間をかけてゆっくりやると、元の表情を活かしたまま安定させられる。焦らず手順を守ると、長く愛せる一体が戻ってくるのが嬉しい。