さりげない日常描写の裏に伏線が据えられていたことに気づいたとき、一気に興味が走った。序盤ではほんの些細な会話や物の置き方が繰り返され、
かぶらぎの過去を示唆する手がかりが散りばめられている。私は、それらを拾い集めて推理するのが楽しくて、何度も読み返した。中盤では第三者の視点からの告白や、捜査記録の断片が入ることで状況が立体化し、読者の仮説と物語の真実が少しずつ交差していく。
作品はドラマティックな告白の瞬間を用意しているが、それ自体がクライマックスではない。真の効果は告白後の反応にあると感じた。かぶらぎ自身が秘密を知ったことでどう変わるか、周囲がどう受け止めるかが丁寧に描かれ、血縁や出自の問題が個人の選択と責任に繋がっていく。こうした構成は、物語の重みを単なるサスペンス以上のものにしている。
例として、別作品の扱い方を引くと『進撃の巨人』での過去情報の小出し戦術と共通するところがあるが、本作はそこに個人の内面の葛藤がより強く織り込まれている。結果として、かぶらぎの出生の秘密は単なる真実の提示以上に、人間ドラマとして深く胸に残った。