高校二年生の白川穂香は、ある日、目覚めるとなぜか現実世界がゲームになっていた。 この世界から脱出できるたった一つの方法は、学園内のイケメンから告白されること。 自称幼なじみのサポートキャラ高橋レンと、この世界から脱出するために恋人のふりをすることになったが、なぜか他のイケメン達ともどんどん仲がよくなっていき、彼らの秘密が明らかに。 化け物退治の専門家!? 異世界を救った勇者!? ホラーゲームの主人公!? 彼らの協力を得て、穂香はこの世界の謎を解き明かし脱出を試みる。
더 보기ベッドの中で心地好い眠りについていた穂香(ほのか)は、聞きなれた電子音で目が覚めた。朝6時にセットしていたスマートフォンのアラームが鳴っている。
(学校に行きたくない……)
そんなことを思いながら、枕元に置いていたスマホを手探りで探す。
高校二年生になったばかりの穂香は、一年生のときに仲が良かった友達全員とクラスが離れてしまった。
別にイジメにあっているわけではない。だけど、仲がいい友達がクラスにいないことがつらい。
「はぁ……」
穂香のため息は、鳴り続ける電子音にかき消された。アラームを止めたいけど、スマホが見つからない。
「あれ?」
スマホを探すために、穂香はベッドから起き上がった。すると、部屋の隅にメガネをかけた見知らぬ男子高校生が佇んでいることに気がつく。
(あっ、これは夢だ)
普通なら悲鳴を上げるところだけど、男子高校生の髪と瞳が鮮やかな緑色だったので、穂香はすぐに夢だと気がついた。
穂香を見つめる男子高校生は顔がとても整っていて、まるでマンガやゲームのキャラクターのように見える。
「起きましたね。アラームは消しますよ」
そんなことを言いながら男子高校生は、穂香のスマホのアラームを慣れた手つきで止めた。
「穂香さん、おはようございます」
「え? どうして、私の名前を?」
と、言いつつ『そういえば、これは夢だった』と思い出す。
夢なら知らない人が穂香の名前を知っていても不思議ではない。
「えっと……どちらさまですか?」
おそるおそる尋ねると、男子高校生はニッコリ微笑んだ。
「嫌だなぁ、寝ぼけているんですか? 私はあなたの幼なじみのレンですよ。毎朝、穂香さんを起こしに来ているでしょう?」
「幼なじみ? レン?」
穂香には、レンという名前の知り合いはいなかった。そもそも幼なじみと呼べるような関係の人すらいない。
(なるほど、これはそういう設定の夢なのね。夢だったら、いないはずの幼なじみがいても問題ないか)
穂香は、初対面の幼なじみに遠慮がちに話しかけた。
「えっと……。とりあえず、あなたのことは、レンさんって呼んだらいいですか?」
「レンさんだなんて! いつも私のことはレンと呼んでいるじゃないですか」
「あっ、そうなんですね」
「穂香さん。いつものようにもっと気軽に話してください」
(そんなことを言われても……)
穂香はその『いつも』を知らない。
「でも、レンさん……じゃなくて、レンは、丁寧な話し方ですよね?」
「私はそういうキャラなので」
「キャラ?」
「ほら、メガネをかけて丁寧語で話すキャラって、マンガやゲームに出てきませんか?」
レンがかけているメガネを指で押し上げた。
(変な夢……)
穂香がため息をついたとき、部屋の外から「穂香ー! いつまで寝ているのー?」と母の声が聞こえる。
すぐにガチャリと部屋の扉が開いたけど、そこにはなぜか誰もいなかった。
「穂香ったら、起きていたのね。レン君、いつもうちの子がごめんなさいね」
誰もいないのに母の声だけが聞こえてくる。レンは、誰もいない空間に向かって「おばさん、お気になさらず」と微笑みかけた。
(紫色の髪?)しかもフードの下に隠されていた顔は、とても整っていた。(女性……ではなく、色白イケメン!? あれ? この人、私の恋愛相手候補とかじゃないよね?)混乱する穂香をよそに、涼は紫髪の青年をにらみつけている。「おまえ、こんなことをして何が目的や」冷たい問いかけに、青年は首をかしげた。「あれ? 勇者じゃなかった。君、誰?」「それはこっちのセリフや!」「わっ、ちょっと待って! 私は戦闘得意じゃないから!」涼の攻撃をかわしながら、青年は何もない空間に手をかざした。すると、そこに穴が開く。穴の中は真っ暗だ。その穴の中に、青年が飛び込むと同時に穴も消える。「涼くん、大丈夫?」穂香は、呆然としている領に駆け寄った。「大丈夫やけど……」涼の瞳は、先ほど穴が開いた空間を見つめている。「あいつ、穴を開けた上に、閉じた」「それって、何か問題が?」穂香の質問には、おじいちゃんが答えてくれた。『化け物は、穴を開けられるが閉じることができん。だからワシらが代わりに閉じて回っている』「ということは、さっきの人は化け物じゃないってこと?」『分からん。より強い化け物の可能性もあるな』「そんな……」『先ほど涼も言っていたが、そもそも、この学校を取り巻く気配がおかしい』赤い瞳が穂香を見つめている。「穂香、も
涼が言うには、学校全体が怪異に飲み込まれてしまっているそうだ。「学校全体が!?」「早く犯人探しをせんと……」涼が校内に入ると、着ている制服が変わった。それは、夢で見た軍服と着物を混ぜたような制服だった。「涼くん。それ、前の学校の制服なんじゃ……? あ、髪も伸びてる」涼の長く赤い髪は、一つにくくられていた。「ここに来る前は、そういう感じだったんだね」「み、見んといて……」「え?」「お、俺の黒歴史、見んといてぇええ!!」「ええ!?」涼は、半泣きになっている。「ちゃ、ちゃうねん! これは、俺の趣味じゃないから! だって皆、こういう制服やったし、穴織家の一族のもんは、力が強くなるからとかいって、髪を伸ばしてて!」「落ち着いて、大丈夫だよ! その姿、夢の中では何回か見てるし! それに、その姿もすごくかっこいいよ! ほ、ほら、アニメとか漫画のコスプレみたいで!」その言葉が涼の傷をえぐったらしく、涼は「あああああ!」と叫びながら頭を抱えている。『涼! 遊んでいる場合か!?』「はっ!? そうやった! 犯人を捜さんと!」すばやく周囲を見回した涼は、「アカン、怪異の影響で学校内に入った生徒の服装が変わっとる! 誰が誰か分からん!」と首をふった。穂香には、相変わらずモブの姿は見えていない。『この中から瘴気の発生源を追えるか?』「無理やな。学校中に変な気が充満してて、元をたどれへん」『ならば……穂香なら犯人を見つけ
【同日 夜/自室】(涼くんと別れて、自分の部屋まで帰ってきてる)なぜか夜の自室にいる自称幼馴染のレンには、もう慣れてしまった。「穂香さん、お帰りなさい」「ただいま……」「なんだか元気がありませんね? 穴織くんと、うまくいってないんですか?」「そうじゃないんだけど。ねぇ、レン。この恋愛ゲームの世界ってハッピーエンドあるよね?」レンは、緑色の瞳を大きく見開く。「もちろんありますよ。ゲームなんですから」「そうだよね? だったら、もし、涼くんに不幸な設定があったとしても、私がなんとかできる可能性ってあるのかな?」「あるでしょうね。恋愛相手が不幸な状態では、向こうも告白なんてしてくれないでしょうし」「だよね⁉ じゃあ、やっぱり私が涼くんの問題を解決できるかもしれないんだ……そうと分かれば」穂香は勢いよく立ち上がった。「明日に備えてもう寝る!」「頑張ってくださいね」レンが立ち上がると、風景が変わった。【10月11日(月) 朝/玄関】(あれ? 日曜日が飛ばされて月曜日になってる!?)『頑張る!』と張り切ったものの、何をしたらいいのか分からず、1日がすぎてしまったようだ。(家にいてもイベントが起こらなかったから、学校に行けば何か起こるかな?)玄関を開けると赤い髪が見えた。こちらに気がついた涼は、ニコッと明るい笑みを浮かべる。「穂香、おはよう!」「おはよう、涼くん」
それからは、配布する用のプリントを印刷したり、文化祭準備の手順を確認したりして、気がつけばお昼どきになっていた。【同日 昼/教室】目の前に浮かんだ文字を見て穂香は、向かいの席に座り作業している涼に「お腹空いたね」と声をかける。「ほんまや、もうこんな時間か!」あわてて立ち上がった涼は、「行こう!」と、穂香に右手を差し出した。「どこへ?」「そりゃあ、もちろん『遊びに』」満面の笑みの涼に手を引っ張られると、風景が変わった。【同日 昼/商店街】(学校から、商店街に飛んでる)そこは、学校付近にある商店街だった。学校帰りの寄り道は禁止されているが、ここはひそかな寄り道スポットとして、生徒の間では有名だ。「穂香、ここで買い食いしよ!」「え? う、うん、いいけど……」「どこか行きたいところ、ある?」「ごめん。私、学校帰りに寄り道したことないから、どこのお店がいいのか分からない」「そうなん!? 実は俺もなくて」「ええっ!? 涼くんはあるでしょう? だって、友達多いよね?」「いや、放課後は、いつも学校の怪異を調べてたから、本当にやったことないねん!」「そうなんだ……。じゃあ、今日は、端からお店を全部見てみる?」穴織の表情がパァと明るくなる。「よっし、行くで! 穂香」「おー!」その後、2人は楽しく初めての食べ歩きを楽しんだ。【同日 夕方/商店街】
どれくらい1人で泣いていただろうか。(なんてひどい設定なの? ……ん? 設定?)穂香は、ふと自分が恋愛ゲームの世界に閉じ込められていたことを思い出す。(ちょっと待って。ゲームなんだから、バッドエンドがあれば、ハッピーエンドもあるはずだよね?)穴織が死んでしまったら、もちろんバッドエンド。ハッピーエンドでは、穴織が生きていないと、とてもじゃないがハッピーなどと言えない。(ということは、このゲームの主人公である私の頑張り次第で、穴織くんの問題が解決するんじゃないかな?)一度、レンに相談しようと立ち上がると、スマホがピロンと鳴った。(涼くんからだ。どうしたんだろう?)画面には『朝からごめん。今日、会える?』と書かれている。穂香は『うん、大丈夫』と返しながら誘ってもらえたことが嬉しくて、ニコニコしている自分に気がついた。(あれ? 私……けっこう涼くんのこと好き、かも?)恋愛ゲームだ、なんだかんだと言っていたので今まで気がつかなかったが、いつの間にか涼に惹かれていたらしい。(ま、まぁ、あんな素敵な人と一緒にいて、好きにならないほうが難しいか)そこで穂香は、ハッと気がついた。(土曜日に外出ということは、私服デートってことだよね!? ど、どうしよう、私、デートに着ていけるような可愛い服なんて持ってないよ)あわててクローゼットを漁っていたら、またスマホがピロンと鳴る。画面を確認すると、涼から『良かった! じゃあ、朝10時に学校の校門待ち合わせで! 文化祭実行委員の仕事をするから制服で来てな』と書いてあった。
穴織の姿が見えなくなると、風景が変わる。【同日 夜/自室】(あれ? 次の日まで飛ぶかと思ったら、まだ夜だ。ということは、何かイベントが起こるかも?)しかし、もう夜も遅いので、涼はもちろんのこと、サポートキャラのレンもいない。(私は何をしたらいいの?)部屋の中を見渡すと、机の上におまじないの紙を見つけた。(これ、前に使ったやつだ。おまじないは、この紙を学校のどこかに埋めたら終わりって涼くんが言ってたっけ)ということは、このおまじないは、まだ終わっていないということ。(もしかして……)穂香は使用済みのおまじないの紙を枕の下にもう一度入れた。ベッドに入り、目をつぶるとすぐに意識がまどろんでいく。*【夢の中】教室に、白い制服を着た涼が立っていた。それは、昨日見た夢とまったく同じ光景だった。(やっぱり! このおまじない、まだ終わってなかったんだ!)長い赤髪が風に揺れている。光る武器を持ち佇む涼は、穂香に気がついていない。『来たのか、娘よ。確か名は穂香じゃったかの?』「はい。えっと、あなたは涼くんのおじいさん、ですよね?」『まぁ、そんなものじゃな。おぬしには、特別に【おじいちゃん♡】と呼ばせてやろう』冗談なのか本気なのか分からないので、とりあえず穂香は「あ、ありがとうございます」と返した。「じゃあ、おじいちゃん。涼くんは、どうしたんですか?」
「穴織くん、いらっしゃい。ど、どうぞ」「……お邪魔します」脱いだ靴を綺麗にそろえるところに、穴織の育ちの良さがうかがえる。 「私の部屋は2階で……」「あの、白川さん。今、部屋の中に、レンレンがいたような気がしてんけど?」「あ、うん。ちょうど遊びに来ていて……」穴織は「白川さんの、その発言が嘘じゃないことに驚くわ」とため息をついた。「と、言うと?」「だって、白川さんは今日、学校を早退したんやで? 俺も今、抜けてきたところやし…。レンレンがここにおるの、おかしくない?」穴織に嘘はつけない。穂香は本当のことを言うしかなかった。「そのことだけどレンは、登校したら私達が校門で話していて怪しかったから、今日は学校を休んだって言っていて……」「ふーん」こちらに向けられた探るような眼差しがつらい。「わ、私の部屋はこっちだよ」部屋に案内すると、部屋の中からレンが良い笑顔で手を振った。「穴織くん、いらっしゃい」「うぉい!? 白川さんの部屋やのに、自分の部屋のごとく、めっちゃくつろいでるやん!?」穴織からのツッコミを、レンは「穂香さんとは、幼馴染ですので」の一言で片づける。穂香も「本当にレンは、ただの幼馴染で……」と伝えると、穴織に「分かっとる、分かっとるけど……幼馴染って、こんな距離感が普通なん?」ともっともな質問をされてしまった。「さ、さぁ?」
穴織は「ところで……」と咳払いをする。「さっきも聞いたけど、白川さんは見えないものが見えるだけじゃなくて、ジジィの声も聞こえてるねんな?」探るような視線を向けられた穂香は、素直に「うん」とうなずいた。「え? マジで?」サァと穴織の顔から血の気が引いていく。「俺、なんか変なこと言ってなかった?」「ううん、言ってないよ。でも、穴織くんって何者なの? 嘘が分かるっていってたよね?その『ジジィ?』さんも……」穴織が「あ、あー……」と言いながら困ったように頭をかいた。「うん、まぁ、全部は話されへんけど、話せるところは話すわ。でも、ちょっと待ってほしい。今は、この学校で起こってることを調べなアカンから……」「分かった。私は帰ったほうがいいかな?」「うん、そのほうが助かる! あとで電話するわ」明るい笑顔で手をふる穴織に、穂香が手を振り返すと風景が変わった。【同日 昼/自室】(あっ、学校から家の自室まで飛ばされてる)レンが「おかえりなさい」と微笑んだ。「穂香さん、今日は早かったですね。学校を早退してきたんですか?」「うん。今、学校でおかしなことが起こっていて。って……レンはどうしてここにいるの!?」「登校したら、校門であなたと穴織くんがバラがどうとか言っているのを聞いて、何かヤバそうだなと思い、即、帰宅しました」「……そこは、私のために『サポートしてやるか』的な流れにはならないんだね」
穴織は、穂香の腕をつかむと、人がめったに来ない非常階段の踊り場まで連れて行った。「何が目的や?」冷たい声だった。「お前……白川さんに成り代わってんのか? それとも、『白川穂香』なんていう生徒は、初めからおらんかったんか?」「え?」穂香が、戸惑いながら穴織を見つめると、サッと視線をそらされた。「ほんま、最悪や。警戒していたはずやのに、いつの間にか心を許して、友達やと思ってた……」胸ポケットからは『むしろ、それ以上の好意が芽生えそうじゃったからな。いや、もう手遅れか? 最悪の初恋じゃのう』とのんきな声がする。無言で胸ポケットを叩いた穴織は、ハッとなった。「もしかして、ジジィの声も、ずっと聞こえてんのか?」穴織は、胸ポケットから光る武器を取り出した。小さくなっていた武器は、取り出したと同時に元の大きさへと戻る。「どこからが計画や」穂香が一歩、後ずさると、穴織は一歩近づく。「どうして、俺に近づいた? 早く言わんと……」壁際まで追い詰められた穂香は、穴織から放たれる殺気のようなものに圧倒されて声すら出せない。(い、言わないと、殺される!)なんとか声を絞り出す。「……ぁ、わ、私……」穂香は、自分が恋愛ゲームの世界に閉じ込められていることを話した。
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