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遥か彼方にこそ、真の美しさがある

遥か彼方にこそ、真の美しさがある

By:  三々秋色Completed
Language: Japanese
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Synopsis

オフィスラブ

愛人

ひいき/自己中

クズ男

不倫

上司である鳴神暁(なるがみ あかつき)との秘密の恋、五年目。彼は私の功績を、幼馴染である柳瀬詩織(やなせ しおり)の昇進の踏み台にした。 世間の目には、暁と詩織は誰もが羨むお似合いのカップルとして映り、私は相変わらず、彼に隠される存在でしかなかった。 ならば、高嶺の花である彼が私にだけは目を向けてくれないのなら、これ以上、彼に執着する意味なんてない。 そして、一本の電話をきっかけに、私はアメリカへ渡り、遥か彼方の景色を見ることを決意した。

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Chapter 1

第1話

上司である鳴神暁(なるがみ あかつき)との秘密の恋、五年目。ようやく私は実績を積み重ね、昇進の機会を手に入れた。

これで彼と肩を並べられる......

そう胸を躍らせていた祝賀パーティーの夜、私は信じられない光景を目にした。

本来なら私のものだったはずの功績が、すべて会社のインターン生である柳瀬詩織(やなせ しおり)に横取りされていた。

周囲の人々は皆、グラスを掲げて歓声を上げ、二人がお似合いのカップルだと囃し立て、その美しさを称賛していた。

しかし、私の全身はまるで冷水を浴びせられたかのように凍りつき、その場に立ち尽くすことしかできなかった。心は凍てつき、世界は色を失ったようだった。

彼が私を愛していないという事実を突きつけられ、私はただ静かに一本の電話をかけた。

「江戸川社長、御社への転職、そしてアメリカでのキャリアアップを希望するわ」

「湊、本気かい?それならすぐにアメリカで歓迎パーティーを開くよう手配するよ!」

私の幼馴染、江戸川臨(えどがわ りん)は私の言葉に一瞬驚いたものの、すぐに採用を決めた。電話越しでも、彼の興奮が手に取るように伝わってきた。

その後、彼は口調を変えて言った。「やっぱり鳴神のやつは見る目がないな。君があいつのそばにいるなんて、完全に才能の無駄遣いだよ!これからはうちの会社で、一緒に大きく飛躍しようじゃないか!」

私は小さく「ええ」と頷いた。レストランのガラス窓越しに、囃し立てられながら詩織と腕を組んで酒を飲み交わす暁の姿が見えた。

彼の顔には微塵も嫌がる様子はなく、むしろ蜜を味わうかのように、その瞳には深い愛情と甘さが満ち溢れていた。

臨も私の周りの賑やかな雰囲気を察し、いつアメリカに飛べるのかと尋ねてきた。

心臓にぽっかりと大きな穴が開いたようだった。私は自虐的に、二人がキスを交わし、離れがたい様子を見つめ続けた。

そして、ズキズキと痛む胸を押さえながら、臨に告げた。「二日だけ時間をください。こちらの仕事の引き継ぎを終えたら、アメリカへ向かうわ」

臨は嬉しそうに電話を切った。私は手を下ろしたが、体は無意識に震えていた。

真夏の夜だというのに、暁の浮気を目の当たりにした私は、まるで氷の牢獄に突き落とされたようだった。

レストランでは、賑やかな笑い声が何度も響き渡り、暁と苦楽を共にしてきた仲間たちも、用意された花束で二人の愛を祝福していた。

指先が手のひらに食い込み、かろうじて最後の理性を保っていた。次の瞬間、暁は窓の外に立つ私に気づいた。

彼の目に一瞬の動揺がよぎったが、すぐに落ち着きを取り戻し、以前のような傲慢で気高い態度に戻った。私には目もくれず、その表情は冷え切っていた。

かつて私は、そんな高嶺の花のような彼に狂おしいほど恋焦がれ、三年間も彼の後を追いかけ、全てを捧げてきた。

そして五年前、彼が私と付き合うことに同意したあの瞬間、私はまるで天にも昇るような喜びを感じたものだ。

しかし今日、このすべてをこの目で見てしまった私は、突然、ひどく疲れてしまった。

暁を追いかけることに疲れたし、彼と恋人関係でありながら、日陰の存在でしかいられない秘密の恋も、もううんざりだった......

暁が詩織のために甲斐甲斐しくエビの殻を剥き、口元を拭い、背中をさする姿を見て、私はようやく理解した。彼は優しさを知らないわけではない。ただ、彼が優しく接したい相手が、私ではなかったというだけのことだ。

レストランへ入ると、テーブルに置かれた酒を手に取り、周りの人々の真似をして、暁に乾杯のグラスを掲げた。

「私、佐倉湊(さくら みなと)は、鳴神社長と柳瀬副社長の末永いお幸せを心よりお祈り申し上げます」

そう言い終えると、私はグラスの中の強い酒を一気に飲み干した。むせて涙が溢れても、私は笑っていた。

暁は一瞬呆然としたが、私のこの姿を見て、思わず顔をしかめた。

自分が邪魔者だと悟った私は、きっぱりと背を向けて立ち去った。

暁は私の背中を見つめ、無意識に私を呼び止めようとした。

しかしその時、詩織の前の酒が突然ひっくり返り、彼女が驚きの声を上げると、暁の視線はたちまち彼女に奪われた。彼はすぐにジャケットを脱いで彼女の膝にかけ、甲斐甲斐しく世話を焼いた。

私は苦笑した。暁の焦った表情を見て、言いようのない苦い感情が胸にこみ上げてきた。

彼との交際も五年目を迎えた。普段は滅多なことでは動じない暁が、詩織の些細な言動一つ一つに、何度もその不動の心を揺さぶられるのだ。

恋は盲目だとしても、これ以上、自分を欺き続けるべきではない。

結局、私は五年住んだあの家へ、一人タクシーで帰った。
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第1話
上司である鳴神暁(なるがみ あかつき)との秘密の恋、五年目。ようやく私は実績を積み重ね、昇進の機会を手に入れた。これで彼と肩を並べられる......そう胸を躍らせていた祝賀パーティーの夜、私は信じられない光景を目にした。本来なら私のものだったはずの功績が、すべて会社のインターン生である柳瀬詩織(やなせ しおり)に横取りされていた。周囲の人々は皆、グラスを掲げて歓声を上げ、二人がお似合いのカップルだと囃し立て、その美しさを称賛していた。しかし、私の全身はまるで冷水を浴びせられたかのように凍りつき、その場に立ち尽くすことしかできなかった。心は凍てつき、世界は色を失ったようだった。彼が私を愛していないという事実を突きつけられ、私はただ静かに一本の電話をかけた。「江戸川社長、御社への転職、そしてアメリカでのキャリアアップを希望するわ」「湊、本気かい?それならすぐにアメリカで歓迎パーティーを開くよう手配するよ!」私の幼馴染、江戸川臨(えどがわ りん)は私の言葉に一瞬驚いたものの、すぐに採用を決めた。電話越しでも、彼の興奮が手に取るように伝わってきた。その後、彼は口調を変えて言った。「やっぱり鳴神のやつは見る目がないな。君があいつのそばにいるなんて、完全に才能の無駄遣いだよ!これからはうちの会社で、一緒に大きく飛躍しようじゃないか!」私は小さく「ええ」と頷いた。レストランのガラス窓越しに、囃し立てられながら詩織と腕を組んで酒を飲み交わす暁の姿が見えた。彼の顔には微塵も嫌がる様子はなく、むしろ蜜を味わうかのように、その瞳には深い愛情と甘さが満ち溢れていた。臨も私の周りの賑やかな雰囲気を察し、いつアメリカに飛べるのかと尋ねてきた。心臓にぽっかりと大きな穴が開いたようだった。私は自虐的に、二人がキスを交わし、離れがたい様子を見つめ続けた。そして、ズキズキと痛む胸を押さえながら、臨に告げた。「二日だけ時間をください。こちらの仕事の引き継ぎを終えたら、アメリカへ向かうわ」臨は嬉しそうに電話を切った。私は手を下ろしたが、体は無意識に震えていた。真夏の夜だというのに、暁の浮気を目の当たりにした私は、まるで氷の牢獄に突き落とされたようだった。レストランでは、賑やかな笑い声が何度も響き渡り、暁と苦楽を共にしてきた仲間たちも、
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第2話
家のドアを開けると、そこには私と暁が共に暮らした痕跡が至る所に残っていた。お揃いのスリッパ、ソファの上のオーダーメイドのクッション、テーブルの上の二人のツーショット写真......私は家で唯一のツーショット写真を裏向きにしてテーブルに伏せた。あの頃のことを思い出した。この写真は、去年の私の誕生日に、私が暁に懇願して撮ってもらったものだ。写真の中の彼は氷のように冷たく、笑顔一つ見せなかった。 ツーショット写真を目にすると、私はまるで感情を失ったかのように、無言で荷物をまとめ始めた。暁の書斎を開けた時、私は壁一面に貼られた詩織の写真を目にした。幼少期から高校、大学時代まで、写真の中の暁と彼女は親密な様子で、見つめ合う彼の瞳には溺愛の情が満ちていた。その時、私は彼がずっと私に語ろうとしなかった幼馴染のことを思い出した。なるほど、長年秘められていたが、詩織はずっと彼の心の中にいたのだ。しかし、心の中に誰かがいるのなら、なぜ私の求愛を受け入れ、私の真心をもてあそんだのだろう?私は書斎のガラスケースに陳列された、彼が毎年詩織のために用意した誕生日プレゼントを見た。私の誕生日には、彼は笑顔一つ見せず、ましてや心を込めたプレゼントなど、夢のまた夢だった。この書斎は、暁が家の中の聖域として、私を一切近づけさせなかった場所だ。今、突然目の前に突きつけられた真実に、私の心臓はズキズキと痛み出した。彼が私と付き合っていたこの五年も、ずっと書斎で詩織との過去を懐かしんでいたのだ。そう思うと、私は思わず嫌悪感を覚え、書斎を飛び出して、あの唯一のツーショット写真を力任せに切り刻み、ゴミ箱に捨てた。深夜、暁は酒の匂いを纏って帰宅し、手に持っていた袋を私の目の前に投げつけた。私を見る彼の目に、後ろめたさの欠片もなく、むしろ上から目線で、施しを与えるかのように私を見た。「湊、今回の君の功績は詩織に譲ってやってくれ。彼女は帰国したばかりの新人だから、君よりも実績が必要なんだ」私は何も言わなかった。彼の恥知らずな本性を初めて目の当たりにして、私の心は、ゆっくりと氷のように凍りついていった。この企画案のために、私がどれだけ徹夜を重ね、大口顧客と胃がキリキリするほど酒を飲んだか、暁が知らないはずがない。しかし今、幼馴染の詩織のためなら、彼はこ
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第3話
翌朝、私の目はひどく腫れ上がっていた。暁は私を一瞥し、珍しく一度だけ心配してくれた。彼は私に尋ねた。「昨日はよく眠れなかったのか?」私は口元を歪めて、何も言わなかった。すると彼は近づいてきて、私の額に触れようとした。近づいたその瞬間、彼のシャツの襟元からくっきりと残るキスマークが見え、私は思わず胸がムカムカと吐き気を催した。昨夜から今朝まで彼と一言も話していなかった私が、ついに口を開いた。「私たち、別れましょう」暁は一瞬呆然とし、顔色も険しくなった。「湊、自分が何を言っているか分かっているのか?」私は頷いた。自分の気持ちをはっきりと理解していた。彼が聞き取れなかったかと心配し、もう一度繰り返した。「ええ、私たち、もう終わりよ。円満に別れましょう」しかし暁は、私がただ駄々をこねているだけだと思い、嘲笑うように眉を上げた。「湊、たった一度の昇進のチャンスを奪っただけじゃないか?そんなに器が小さいのか?まさか別れるなんて言って脅すとはな」彼は手に持ったベルトで私の頬を軽く小突き、一言一句問い詰めた。「俺なしで、君一人で生きていけるのか?そんな言葉、二度と聞かせないでくれ。やきもちを焼くにもいい加減にしろ」私が気を引こうとしているとでも勘違いしたのだろう、暁は初めて、私と一緒に会社へ車で行こうと提案した。これまで彼と秘密の恋を五年続けてきたが、彼は常に「避けるべきだ」と言い、私を自ら車に乗せることは決してなかった。暁は私を車に促したが、助手席には破れたストッキングが転がっていた。私は込み上げる吐き気を抑えながら車のドアを閉め、後部座席へ移動した。暁の顔色も一瞬こわばった。「昨日、詩織が服を汚したから、車の中で着替えたんだ」私は彼の説明を聞くことなく、ただうんざりして目を閉じた。会社に入ると、普段は仲良くしていた同僚たちが、私を奇妙な目で見ていた。まるで高みの見物を決め込んでいるかのような表情だ。私は自分のオフィスに近づいたが、大切にしていた資料やファイルがすべて床に散乱し、私物は無残にもひっくり返されていた。私の心にたちまち怒りが込み上げた。誰がこんなことをしたのか問い詰めようとしたその時、詩織が二人に指示して机を運び入れてくるのが見えた。床に落ちていた、二つの汚れた靴跡が付いた企画案を拾い上げ
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第4話
暁の怒りは収まらず、詩織を落ち着かせるとすぐに私を非難し始めた。その口調は極めて悪辣で、まるで私が極悪非道な過ちを犯したかのようだった。残念だが、私の平手打ちはまだ詩織の顔にすら届いていなかったのだ。彼は私に怒鳴りつけた。「湊、会社で仕事ができるならやれ、できないなら出て行け!まさか、この会社がお前の私物だとでも思っているのか! お前のような傍若無人で、一切の寛容さも持ち合わせていない人間は、この小さな会社には到底収まりきらない傲慢な存在だ!」私の涙は堰を切ったようにとめどなく流れ落ち、心臓はズキズキと痛んだ。かつて、私が彼を三年間追いかけ、実家から資金を出して彼の起業を支援し、父に陰で彼を指導させ、彼を一歩一歩高みへと押し上げたのだ。しかし彼は、私が突然副社長に就任するのは良くない、縁故採用だと言われるのが嫌だと、私に雑用係から始めるよう言った。指先にできた硬いマメをそっと撫でた。今ではもう、あのような汚い力仕事をすることはなくなったが、あのマメは私の手にも、そして心にも、まだ消えずに残っている。暁は軽い一言で、私が会社のため、そして彼のために尽くしたすべての努力を否定したのだ。私はまるで初めて彼を知ったかのように、ついに彼の自己中心的で醜い本性をはっきりと見た。彼が詩織を抱きしめてオフィスを出て行くのを見て、ドアの外の野次馬と化した同僚たちの視線が、たちまち私に集中した。同情、憐憫、そして嘲笑......私は涙を拭い、机に手をついて自力で立ち上がった。その間、誰も私を助けようとも、声をかけようともしなかった。結局、秘書の矢野佳奈(やの かな)が見かねて、ドアを閉めてくれた。それが私の最後のプライドを守ってくれた。そして、ティッシュを差し出してくれた。額の血が地面にぽたぽたと落ちて、私は初めて頭を怪我したことに気づいた。痛みをこらえながら、お手洗いで簡単に傷口を手当した。手を洗っていると、唇が腫れ上がった詩織がいた。彼女は私に向かって得意げに笑った。「男の心を繋ぎ止められないなら、いくら仕事ができても無駄よ。見てなさい、あなたが努力したすべてを、私は何の苦労もなく手に入れられるんだから!空気を読めるなら、もう私と争わないことね!」彼女はネイルで私の額の傷口を小突き、軽蔑した口調で言った。「私と暁さ
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第5話
翌日の会議室は、全員が背筋を伸ばして座り、空気が張り詰めていた。暁は顔を真っ青にして、湊に何度も電話をかけたが、ことごとく話し中で繋がらなかった。会議が始まる寸前、会社の何人かの大株主が苛立ち始めたため、彼は詩織を壇上へと押し上げた。「詩織、この功績は君に与えたものだ。それは君の能力を見込んでいるからだ。今回、湊が不在だが、ちょうどいい機会だ。壇上でプレゼンをして、その手腕を見せてくれ!」詩織はたちまち顔色を失った。功績を横取りしたのは事実だが、企画書もパワポも全て湊から盗んだもので、彼女は一度も目を通しておらず、その内容については全くの無知だった。しかし、暁の励ましの眼差しを見て、彼女は渋々ながらも壇上に上がった。暁は壇上でプレゼンをする詩織の話を、以前ほど集中して聞いていなかった。むしろ上の空で、何度も湊の番号に電話をかけ続けていた。詩織はパワポの内容を見よう見まねで話すだけだったので、壇下の株主が専門的な知識を尋ねると、詩織は口ごもり、しどろもどろで何も言えなくなった。会社の何人かの役員は口裏を合わせたように首を横に振り、この案件について別の決断を下した。そして彼らが暁を見る目には、明らかに不満の色が宿っていた。ある株主が壇上の詩織に問いかけた。「この企画案は、あなたがご自身で作成されたものですか?」詩織は目を大きく見開き、何度も頷いた。「もちろん、私が心血を注いで作ったものです。ただ、このような大勢の人の前で発表するのは初めてで、つい気後れしてしまい、皆様にはお見苦しいところをお見せしました」詩織の白を黒と言い張るのが得意で、これほど多くの視線が注がれる中で、堂々と嘘をつくことができた。しかしその時、湊が昨日、一部の株主たちに送っておいた監視カメラの映像と録音が、まさにその真価を発揮した。一人の株主が眉をひそめ、USBメモリを隣の秘書に手渡した。その秘書は、詩織がまだ壇上でプレゼンをしているにもかかわらず、躊躇なくパワポを閉じ、そのUSBメモリを差し込んだ。詩織は驚き、会議室の株主たちから向けられる視線に、初めて後ろめたさを感じた。「柳瀬副社長が今回の企画案を全面的に担当されたとおっしゃるなら、パワポがなくても、ご自身で作られた内容を完璧に覚えていらっしゃるはずですよね」詩織は、事態が自分の
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第6話
多くの視線に促され、詩織は唇を噛み締め、顔色も青から白へと変わり、体は無意識に震え、一言も発することができなかった。彼女は口を開いたが、言葉を発することができなかった。会社の幹部たちは皆、優秀な者ばかりだ。すぐに誰かが異変に気づいた。USBメモリを取り出した株主が、最後に彼女に問いかけた。「柳瀬さん、今回の企画案は本当にあなたが全面的に企画されたものですか?」「わ、わ、私......」詩織は助けを求めるように暁を見たが、一言も話すことができなかった。すぐに、その株主は鼻で笑い、暁を見て、意味深な口調で言った。「鳴神社長、この企画案は確かに滅多にない素晴らしいものですが、どうやら人を見る目は少々お粗末なようですな」その言葉が終わるやいなや、彼が手で合図をすると、USBメモリの中身がスクリーンに公開された。湊が昨日去る前に、家で自分のすべての仕事記録をバックアップし、監視カメラの映像と録音を含めて、暁と対立していた数人の株主たちに送っておいたのだ。詩織が昨日湊を脅した言葉に対し、湊は争う気など毛頭なく、そもそも彼女と争うことすら軽蔑していたのだ!才能も徳もない人間が、他人の労働の成果を盗んで何の報いも受けないなど、許されるはずがない。この失脚こそが、湊が彼ら二人のために用意した結末なのだ!暁もこの時、壇上の異変に気づき、顔色を真っ青にして、黙って画面の内容を見つめていた。スクリーンには、湊の手書きの原稿が次々と表示された。企画案に残された修正の痕跡は、湊の努力の証だ。湊が現地で取材した記録報告書や写真、動画も、すべてが証拠として提出された。そして動画の中では、湊が現地調査中に、悪意を抱いたホームレスに出会い、ナイフで傷つけられそうになる場面が映し出されていた。この光景を見た暁は血走った目で、勢いよく席から立ち上がり、思わず湊の名前を叫んだ。「湊――」皆が彼の方を見た。それぞれの顔には様々な感情が浮かんでいた。「どうやら鳴神社長も、この企画案が誰の心血を注いだものかご存知のようですが、人の功績を横取りするのは良い習慣ではありませんな」暁は力なく椅子に崩れ落ち、拳を固く握りしめた。動画の中で湊が危うく傷つけられそうになった瞬間を見た時、彼は今すぐにでも動画の中に飛び込み、湊を庇護したいと強く思っ
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第7話
暁は打ちひしがれた様子で、詩織の手を振り払った。詩織は不意を突かれ、地面に倒れ込み、彼を見る目には信じられないといった感情が満ちていた。「暁さん!早く証明してよ!これらは全部私が苦労して作ったものなのよ!」「黙れ――」暁は冷静さを失い、怒鳴りつけた。詩織は彼がこんな姿になるのを初めて見て、怖くて何も言えなかった。会議室の面々は、呆れと驚きが入り混じった複雑な表情をしていた。思わぬ見世物を見せられたのだ。そして次に、数人の株主たちはより決定的な証拠を提示した。「これは佐倉部長が退職前に私に送ってきた監視カメラの映像と録音です。皆様、これをご覧になれば、どちらが正しいかお分かりになるでしょう」突然湊の名前を聞き、暁は瞬時に顔を上げた。しかし、その直後に「退職」という言葉が彼の混乱しきった神経に突き刺さり、彼の頭の中は真っ白になった。彼は口をパクパクさせ、しばらくしてようやく声を出した。「退職?」「誰が退職したって?湊が?でも彼女は昨日、時間通りに会議室に来ると約束したはずだ!退職するはずがない!」退職という事実よりも、暁が確信していたのは、湊が彼を離れるはずがないということだった!湊が俺を三年間追いかけ、秘密の恋で五年も我慢してきたのに、一度も離れようとしなかったのに、たかが小さな企画案のことで俺を離れるはずがないだろう?信じられない!あれほど俺を愛していた湊が、このまま去っていくものか!佳奈は「ちっ」と舌打ちをした。暁のこの狂乱ぶりを見て、思わず心の中で悪態をついた。惚れた腫れたと騒いでいた時は知らん顔、いざ愛想尽かされたら手のひら返し。今さら何を情熱的な恋人ぶっているんだ!そう思いながら、佳奈は昨日湊が彼女に転送を依頼した辞職願を取り出した。そこにはすでに捺印が押され、退職が承認されていた。暁はその辞職願を奪い取り、一文字一文字、真剣に読んだ。しかし、間違いなく、佐倉湊は退職していた。彼女は【外の広い世界を見てみたい】と書いて、彼のもとを離れた。彼を必要としなくなったのだ。常に落ち着いていて、高嶺の花のような気品を保っていた暁が、初めて目元を赤く腫らした。心臓は見えない大きな手に掴まれたかのように締め付けられ、息が詰まりそうになった。スクリーンでは昨日のオフィスでの映像が再生され始め
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第8話
監視カメラの映像を見終えた後、お手洗いでの湊と詩織の対峙の録音も再生された。その意地悪く、辛辣な口調と、あの厚顔無恥さには、居合わせた全員が呆れた声を上げた。暁は、隅で震え上がっている詩織を見て、その目に鋭い冷たい光を放った。幼馴染の詩織は、五年ぶりに会った時には、もう以前の彼女ではなかった。彼女はもう彼の心の中にいた清楚な可憐な花ではなく、画面に映る監視カメラの映像と録音は、詩織の真の姿をまざまざと暴き出したのだ!湊を犠牲にしてまで詩織に花道を作り、彼女を昇進させてやったというのに。しかし今、彼は理解した。このすべてが、とんでもない間違いだったと!彼は詩織が湊を傷つけるのを許し、自分自身も詩織の恋の罠にはまり、彼女の一方的な言い分を信じ、湊を傷つける共犯者となってしまったのだ!彼は間違っていた!すべてが間違っていた!彼が自らの手で愛する人を遠ざけ、湊の全ての愛情を使い果たしてしまったのだ!暁はすべてを悟ると、狂ったように駆け寄り、詩織の首を締め上げた。彼は理性を失った目で問い詰めた。「なぜこんなことをしたんだ?湊の前にしゃしゃり出るなと警告したはずだろ!一体何様のつもりだ!」詩織は彼に首を絞められ、呼吸もままならない状態に陥り、顔は血の気を帯びて真っ赤に染まっていた。会議室の皆が事態を大きくすることを恐れ、大勢で手分けして二人を引き離した。詩織は涙を流し、目の前で悪鬼のように命を奪いに来た男を見て、初めて死に瀕する感覚を味わった。詩織は暁を手中に収めたと確信していたが、まさか忠犬のように言いなりだった湊が、暁の心の中でこれほど重要な地位を占めていたとは思いもしなかったのだ。自分に向けられる、軽蔑、嘲笑、そして侮蔑の視線を感じ、詩織は顔を手で覆い、地面に穴を掘ってでも隠れたいと願った。ちょうどその時、警備員も駆け込んできて詩織を担ぎ上げて引きずり出した。数人の役員が共同で決定を発表した。詩織は解雇、業界から追放され、二度と採用しないと。暁も会社の創業者ではあるが、今の魂が抜けたような彼の様子では、しばらくは手元の仕事をこなすことはできないだろう。そのため、暁は長期休暇を強制され、担当していたプロジェクトは他の者に割り振られた。 詩織は引きずり出されようとする寸前、最後の望みを託すかの
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第9話
飛行機がアメリカに到着したその日。臨は本当に盛大な歓迎会を開いてくれて、私は戸惑うばかりだった。臨は空港で嬉しそうに私の荷物を受け取った。佐倉家と江戸川家は代々続く付き合いで、佐倉家は国内に残り、一方江戸川家は海外で発展を遂げていたのだ。臨も私と暁の秘密の恋の五年を知っていた。私が暁の周りをうろつくのを見るたびに、彼は不甲斐なさに歯がゆい思いをしていたものだ。彼はからかうように私に尋ねた。「鳴神から君を奪おうと五年も企んできたけれど、まさか今回、勝手に崩れるとはね。今回は本当に決心したんだね?」私は頷いた。「決心したの」私の口調を聞いて、臨も無意識にふざけた態度を改めた。「世の中にはいくらでもいい人がいるさ。暁とは、別れるなら別れるで、もっと良い人が見つかるさ」私は思わず笑ってしまった。「もう、元気づけようとしなくていいわ。彼を離れると決めたあの瞬間から、彼との過去は全て断ち切ると決めたの」「今は仕事一筋で、すぐにでも腕を振るいたいわ」私は臨の肩を叩き、こっそりどんな役職を用意してくれるのか尋ねた。臨はさすが私の幼馴染だ。義理堅い男だ。彼は真剣な顔で言った。「君のスキルなら、うちの会社でも才能を埋もれさせてしまうんじゃないかと心配になるくらいだよ。だから、来てくれるのは本当に嬉しい。待遇も役職も申し分ないものを用意するさ」彼の言葉で、私はすべてを理解した。どうせ国内で暁のそばにいた時よりも、ずっと高い役職に違いない。安心した私は彼に尋ねた。「突然抜擢されて、縁故採用だと罵られるのが怖くないの?」臨は口元を上げて笑った。「もちろん怖くないさ。それどころか、今後君に何かあったとしても、俺が責任を持つよ」彼がそう言った時、彼は私にとても近く、その約束は私の耳から心にまで響くようだった。私は俯いて何も言わず、ただ静かに彼との距離を取った。しかし臨はとても忍耐強く、常に私から半歩離れた距離を保っていた。空港を出るまで、彼の影は私のすぐそばに寄り添い、私の後ろを、静かで頼りになる守護者のように付いてきていた。歓迎会の後、私は正式に臨の会社に入社した。最初は、もちろん不満を抱く者もいたが、私は全く慌てなかった。国内で培った経験と優れた経歴を直接提示し、皆を納得させた。暁のもとを離れてから、私の生活は徐
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第10話
再び暁に会ったのは、仕事帰りの道中だった。彼が突然私の目の前に現れた時、私はしばらく考えて、ようやくかつての傲慢で冷淡だった暁と、目の前の無精髭を生やした男を結びつけることができた。半年ぶりに会った暁は、角が取れたようだった。臨の話によれば、私が去ってから会社は下り坂を転がり落ちていたし、さらに私は父に暁の会社から投資を引き上げてもらっていたからだ。彼は体がかなり痩せ細り、よれよれの白いシャツを着て、目の下にはクマがあり、生気がないように見えた。しかし、私を見た瞬間、暁の目には光が迸った。まるで失って再び手に入れた宝物を見たかのように。私は一歩後ずさり、暁の触れる手を避けた。彼の手は宙ぶらりんのまま残され、そして力なく垂れ下がった。彼は希望に満ちた目で、前に出て私の前に立ち、突然つらつらと後悔の言葉を述べ始めた。「湊、以前は俺が間違っていたと分かっている。あの五年間に多くの過ちを犯した。君を失った瞬間、心が切り裂かれるようだった。本当に君なしでは生きていけないのは、俺の方だったと知ったんだ」彼は胸から大切そうに一枚の写真を取り出し、私の前に差し出した。「湊、見てくれ。俺たちのツーショット写真だ。ゴミ箱から拾い集めて、少しずつ繋ぎ合わせたんだ。一度見てくれないか。そして、俺のそばに戻ってきてほしい!誓うよ、これからは必ず君を大切にする。二度と裏切らない!これからもたくさんのツーショット写真を撮ろう!あの嫌な過去は、すべて君の記憶から消し去ってやる!」私は蜘蛛の巣のようなひび割れのある写真を見て、思わず笑ってしまった。そして手を上げて写真を叩き落とした。写真が風に飛ばされるのを見て、暁は狂ったように地面に落ちた写真を拾おうとした。しかし、私と彼との唯一のツーショット写真は、脇を走る車の流れに巻き込まれ、地面に落ち、次々とタイヤに轢かれ、泥だらけになった。まるで私たちの過去が、不誠実と裏切りにまみれていたかのように。暁は目元を真っ赤にして、私を見上げた。「湊、許してくれ、許してくれないか。かつては、誰を本当に愛しているのか、自分でも分からなかった。だが、君を失ったことで、初めて君なしでは生きていけないと痛感したんだ!あの頃、まだ若かった。君も俺が間違いを犯すことを許してくれ!でも誓うよ、絶対に二度とない!
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