こういうジャンルを扱うとき、まず最初に念頭に置くべきは「作者の意図」を壊さないことだと考えている。シリアスな心理描写や狂気とも混ざる性描写では、語感や語彙の選び方一つでトーンが180度変わってしまう。例えば『Saya no Uta』のような作品では、直接的な翻訳をすると生々しさだけが残り、原作が持つ奇妙な不安感や違和感が失われかねない。だから私は、単語レベルの置換ではなく「場面ごとの雰囲気」を優先して訳文を作ることが多い。
次に重要なのはキャラクターごとの一貫性だ。年齢や性格、教育レベルの差を訳語でどう表現するかは作品のリアリティに直結する。口語表現や方言、スラングの使い分けを雑にすると人格が崩れるので、キャラごとの語彙一覧を作ってから作業を進めることを自分の流儀にしている。
最後に、法的・倫理的な配慮も怠らない。対象年齢、登場人物の年齢関係、地域ごとの規制は事前に確認し、必要なら訳注やレーティング表示で読者に配慮する。翻訳はただ言葉を移す作業ではなく、作品の感触を別の文化圏に正しく伝える仕事だと感じている。