本の世界に足を踏み入れるとき、どの作家から始めるかで印象がだいぶ変わる。個人的には読みやすさと文学性のバランスがとれている作家をまず勧めたい。
純文学と言っても硬く敷居が高いわけではなく、言葉の使い方や視点に触れることで読む楽しさが広がるからだ。短めの短編や話題作から入ると、敷居がぐっと下がると思う。
まず、親しみやすさでいうと『火花』の又吉直樹はとても入り口に向いている。文体が無理なく頭に入ってきて、登場人物の心情描写がシンプルながら深いので純文学の雰囲気を味わいやすい。次に川上未映子の『乳と卵』は言葉の力を実感できる作品で、女性の視点や身体感覚の描写が新鮮。村上春樹の『ノルウェイの森』は世界的に知られているせいで敷居が低く感じられがちだが、内面描写と比喩の層を楽しみたい人にはぴったりだ。
もう少し違った味わいを求めるなら吉田修一の『悪人』や吉本ばななの『キッチン』もおすすめ。『悪人』は登場人物の動機や社会を鋭く描きつつ読みやすく、『キッチン』は日常の小さな出来事を通して心の機微に触れさせてくれる。長めの作品が苦手なら短編集や受賞作を狙うと失敗が少ない。読書を重ねるうちに、語り口やテーマで自分に合う純文学作家が見つかるはずだ。
自分の経験から言うと、初めての一冊は感覚に合うかどうかで判断するのがいちばんだ。固有名詞や賞の名前に惑わされず、まずは一つ手に取ってみる。それがたとえ短い作品でも、次の一冊への道しるべになってくれる。ゆっくり、でも確実に好きな作家を増やしていくのが読書の醍醐味かなと感じている。