英訳の“読みやすさ”について話すとき、海外の読者がよく挙げる定番とその理由が自然に頭に浮かびます。読みやすい翻訳とは単に平易な英語という意味だけでなく、原作の雰囲気や語り口を英語圏の読者がすんなり受け取れる形にしていることが重要です。レビューサイトや書評で評価が高い作品には、翻訳者の語感や文体を活かしつつ、注釈や訳注で文化的背景を適宜補っているものが多い印象です。
古典寄りの“
純文学”だと、やはり翻訳者の名が読みやすさの指標になります。例えば、川端康成の'Snow Country'(Edward G. Seidensticker訳)は詩的な描写を損なわずに英語として滑らかに読めると評価されています。同じ翻訳者の'The Makioka Sisters'は戦前・戦中の微妙な家族関係や空気感を丁寧に訳出していて、海外の読者から「読みやすい日本文学」として繰り返し名前が上がります。夏目漱石の'
kokoro'(Edwin McClellan訳)も、原作の心理描写を平易な英語で伝えることで定評がありますし、古典の大作では'The Tale of Genji'(Royall Tyler訳)が現代英語で読みやすく、注釈も豊富なので初心者にも手が出しやすいという声が多いです。
現代作家では、村上春樹の英訳(Jay RubinやPhilip Gabrielなど)が海外で圧倒的に読み手を獲得してきました。'Norwegian Wood'(Jay Rubin訳)や'Kafka on the Shore'(Philip Gabriel訳)は、原文のリズム感を残しつつ英語としての読みやすさを重視している点が好評です。最近の話題作だと、川上未映子の'Breasts and Eggs'(Sam Bett & David Boyd訳)は現代日本語の微妙な語り手の声を英語でうまく再現していると評価され、日常感のある「読みやすさ」を持っています。さらに短めで読みやすい純文学としては、'Convenience Store Woman'(Ginny Tapley Takemori訳)が英語圏で広く受け入れられ、訳の判断が明快で読みやすいと評されています。
海外読者としては、翻訳版を選ぶ際に翻訳者の評判や書評、試し読みでの語感を重視します。個人的には古典系はSeidenstickerやRoyall Tylerの落ち着いた訳が好きで、現代作家はRubinやGabriel、そして最近のBett&Boydのようなペア訳に魅力を感じます。結局のところ「読みやすさ」は好みも関係するので、訳者や版元の解説を見て自分の好みに合いそうな一冊を選ぶのが一番堅実だと思います。