読むたびに気づくのは、原作者が葛藤をただの対立ではなく“重なり合う層”として描いている点だ。『
ことわり』では登場人物それぞれの過去、欲望、倫理観が微妙にずれてぶつかり合い、その結果生まれる空白や沈黙を丁寧に拾っていく。言葉にされない痛みや、互いに誤解し合う瞬間を細い描写で繋げ、読者にそのズレを経験させることで、葛藤が単なるプロット装置でなく人間性の証明になっていると思う。
視点の切り替えも巧みで、ある章では外面的な対立が前面に出る一方、別の章では内面の自己矛盾が主題になる。こうした対比が感情の起伏を作り、キャラクターがどう選択し、なぜ後悔するのかを立体的に見せる効果を生んでいる。
個人的には、対話と沈黙のバランスが最も印象的だった。台詞で解決されない問題が余白として残り、読後も登場人物の決断を反芻させる作品だと感じた。