ふと思い出したのは、
兄妹の日常の細部を巧みに切り取る筆致に惹かれた作品だ。
僕が最初に挙げたいのは『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』だ。表面的にはコメディ色が強く、妹の趣味や秘密が話の核になっているけれど、兄の心理描写が意外に細やかで、保護欲と距離感の揺らぎが絶妙に描かれている。兄が妹の変化に敏感に反応し、言葉の端々や行動の選択に迷いが出る過程を追うと、単なる「可愛い」感情だけでは済まされない複雑さが見えてくる。
どの場面でも、兄の内面は常に二重性を帯びている。世間体や常識と、家族としての独占欲や心配の間で揺れる様子が、細かな心理描写とユーモアでバランスよく示されているから読みやすい。ライトノベルとしてのテンポの良さがある一方で、キャラクター同士の微妙な距離感に注意を向けると、兄の愛情の形が多層的に理解できる。
読後には「兄妹
愛とは何か」を考えさせられて、軽い娯楽以上の余韻が残る作品だ。もし兄の心理を観察する視点で読み直すと、新たな発見が確実にあると思う。