情を断つ

京都の社交界の誰もが知っていた。私が佐藤慶太のイヌだということを。

10年間彼にべったりくっついていた女のイヌだと。

でも私は気にしなかった。

人を愛し、その人にべったりくっつくことが間違いだろうか？

間違いではない。

私の佐藤慶太への執着を、彼も知っていた。

彼は私に諦めさせようと、わざと彼女を連れてきたりもした。

結果、佐藤慶太がいない隙に、私はその女性にお金を渡して佐藤慶太から離れるよう頼んだ。

しかしその女性は私に告げた。佐藤慶太の側には使い切れないほどのお金があると。このちっぽけな金額など眼中にないと。

最後には、階段から転げ落ちるという茶番劇が演じられた。

佐藤慶太もちょうどその場面を目撃した。

彼は私が精神分裂症だという理由で、私をリハビリ施設に送り込んだ。

リハビリ施設を出てから3年が経っていた。

外に出るとすぐ、一台のアウディが停まっているのが目に入った。

とても場違いな光景だった。

私はちらっと見ただけで、すぐに顔を伏せて立ち去ろうとした。

車から降りてきた人が私を呼び止めた。

佐藤慶太だった。

彼は3年前よりも大人びていた。

でも私はちらっと見ただけだった。

先生が言っていた。人をじっと見つめるのは失礼だと。

特に、好きな人を。

そう、3年経って、私は完全に洗脳されていた。

彼が車に乗るよう言うと、私は素直に従った。

おとなしく後部座席に座り、自分のズボンの裾を見つめ、身動きひとつしなかった。

佐藤慶太が隣に座ると、熱い視線を感じた。

車内の雰囲気はとても微妙だった。

私は息をするのもおっくうだった。

でも、それでも咳き込んでしまった。

昔からの持病だ。

車は佐藤家の実家に停まった。

彼のおばあさんがここに住んでいる。

もし間違いでなければ、今日は佐藤のおばあさんの80歳の誕生日だ。

佐藤慶太が私を迎えに来た理由が何となくわかった。

「佐藤さん……佐藤さん、私、プレゼントを持ってきていません。」私は佐藤慶太の背中を見て、少し躊躇した後、結局彼を呼び止めた。

佐藤慶太が振り返った瞬間、私の心臓はドキドキと高鳴り、慌てて顔を伏せた。

よくわかっていた。心臓の鼓動が早くなったのは、ときめいたからではなく、恐怖からだということを。

いつからだろう、私の度胸がなくなってしまったのは。

誰かに見られるだけで怖くなる。

その夜は悪夢を見てしまうほどで、たくさんの目に見つめられる夢を見る。

「ついてこい。」佐藤慶太は私の言葉を無視し、ただついてくるように言った。

相変わらず冷たかった。というか、彼は私にだけこんなに冷たいのだ。

私は小走りでやっと彼についていけた。

「まあ、帰ってきたのね。早く入りなさい。」

佐藤のおばあさんが門口で待っていた。

佐藤のおばあさんは子供っぽくて、私にとても優しい。

彼女は私が佐藤慶太を追いかけることを応援してくれたり、こっそり佐藤慶太の居場所を教えてくれたりした。

私は彼女の側に行き、「おばあさま」と呼びかけた。

「まあ、急によそよそしくなって。おばあさんを恨んでいるの？」佐藤のおばあさんは私の頭を撫で、慈愛に満ちた表情を浮かべた。

私は彼女に首を横に振り、そんなことはないと伝えた。

どうして彼女を恨むことができようか。

3年前、彼女が死をもって脅さなければ、私はきっと刑務所に入っていただろう。

ここのリハビリ施設は、外の世界には「教育施設」という建前で設立されているのだ。