台所で香りが立ち始める瞬間には、いつも故郷の食卓を思い出す。家庭で本格的な
ダルバートを再現する鍵は、構成要素それぞれを丁寧に作ることにあると考えている。まずダル(豆)は、豆の種類で風味が大きく変わる。トゥール(パル)やムング、マスールのいずれかを選び、1カップの豆に対して水を3カップほど加え、塩とターメリックを少々入れて圧力鍋で柔らかく煮る。鍋で煮る場合はアクを取りながら時間をかけて仕上げ、豆の形が少し崩れる程度のとろみが理想だ。
ダルの仕上げに欠かせないのがテンパリング(チャール・タルカ)。油—or できればギーかマスタードオイル—を熱し、クミンシード、刻んだニンニク、生姜、乾燥赤唐辛子を香りが立つまで炒め、最後にそれをダルに注ぎ入れる。ここでの火加減と油の種類で香りの深さが決まるから、気を抜かない。バート(ご飯)は洗って水気を切り、米1に対して水1.5〜2の割合で炊き上げる。吸水させる時間が取れればふっくらする。
タルカリ(副菜)は季節の野菜を使い、クミン、コリアンダー、ターメリック、チリで軽く炒め煮にする。じゃがいも、カリフラワー、ナスなどに豆や豆腐を合わせてもよい。アチャール(漬物)は酸味と塩気、辛味が肝心で、トマトや人参、青マンゴーをマスタードオイル、塩、レッドチリ、フェヌグリーク、レモン汁で和えると家庭でも本格的な味わいになる。最後に盛り付ける際は、皿中央にご飯を置き、ダルをかけ、周囲にタルカリとアチャールを配してバランスよく。私はこうして一皿ごとに味を確かめながら整えるのが好きだ。
実践的なコツとしては、塩は煮る段階よりも仕上げに調整すること、テンパリングは熱いうちに行うこと、油は香りのキャリアだから妥協しないこと。時間がないときは豆を前夜から浸しておく、あるいは圧力鍋で一気に仕上げるのが便利だ。家庭で作るからこそ、少しずつ自分好みに配合を変えて、器や盛りつけで食べる人の顔を思い浮かべながら作ると、本格の味に近づくと思う。最後にひと言、丁寧に作れば必ず心に残る食卓になると信じている。