ページをめくる手が止まった瞬間のことをよく想像する。登場人物が
手持無沙汰であることをただ『退屈そうだ』と書く代わりに、細部で示すのが好きだ。僕は袖を指でつまんで糸目を探るような描写や、指先でテーブルの傷をなぞる仕草をよく使う。そうした小さな動きは読者に視覚を与え、内面の空虚や不安を匂わせることができる。
別の効果的な手法は、周囲の小物を介した『代理行動』だ。たとえば古い本を何度もめくる/ペンのキャップを何回も抜き差しする/椅子の角をつつくといった動きは、言葉で説明するよりよほど自然に手持無沙汰を伝えてくれる。『ノルウェイの森』のように、場面の残像を積み重ねることでキャラクターの内面が浮かび上がることがある。
さらに、内的独白と外側の動作を交互に置く書き方も効果的だ。心の中で何かを考えている間にやたらと爪先で床を押す描写を入れるだけで、読者はその人物が思考で埋められていない時間をどう埋めているかを直感的に理解できる。僕はこうした細かい仕草を織り込むことで、手持無沙汰が読者にとって『見える』ものになると感じている。