料理研究家はおふくろの料理を現代風にどう再現していますか？

調味料の比率をいじるのが、一番ワクワクする作業だ。伝統的な筑前煮を現代風に再現するときは、素材の持ち味を生かしつつ余分な重さを落とすことを意識する。具体的には根菜を圧力鍋で短時間に柔らかくしてから、別鍋で合わせだしを作り、短時間で味を染み込ませる。こうすることで濃い味の時間を短縮でき、素材感が残る。

甘さを控えめにして旨味を立たせるためには、煮物に使う醤油を一段階ライトなものに替え、代わりに魚介系のだしを強めに仕込む。仕上げに少量の発酵調味料を足すと味の輪郭がはっきりするので、砂糖の使用量を抑えつつ満足感を出せる。食感のリズムを作るために根菜の一部を表面を素揚げしてから合わせ、ホクホクと歯ごたえの両方を楽しめるようにするのも私のお気に入りの手法だ。

食卓に出すときは、器と添え物で古さを現代へ橋渡しする。例えば、刻み青ねぎや刻んだ柑橘の皮で軽さを添えると、懐かしさを保ちながらも軽やかな印象になる。こうして作ると子ども世代から年配まで食べやすくなることが多く、家の味が新しい世代に受け継がれていくのを感じる。

レシピの核を守ることが最重要だと考えているので、味噌汁を現代風に仕立て直すときも素材の素朴な良さを壊さないようにしている。基本の出汁は昆布と鰹に小さな工夫を足して、香りの幅を広げる。たとえば乾椎茸の戻し汁を少量混ぜると、味に深みが出て塩分を下げても満足感が保てる。

具材の扱い方も変える。豆腐は崩れにくい絹寄せを軽く水切りしてから低温で温め、野菜は食感を残すために茹で時間を短めにする。仕上げに生の香味野菜を刻んで散らすと、熱い汁物に爽やかなアクセントが加わる。発酵食品の隠し味を少量足すと全体が丸くなり、味噌そのものの風味を引き立てる。

最終的には、昔の家庭の温かさを損なわずに、健康志向や現代の嗜好に合わせて軽やかにする。そうすることで食べる人が毎日でも飽きずに手を伸ばせる一椀になると信じている。

味の記憶って不思議だ。母の作った肉じゃがの甘じょっぱさを現代風に再現するとき、まず味の“核”を見失わないことが肝心だと思っている。母の鍋から立ち上る香り、じゃがいものほくほく感、牛肉の旨味――その三つを分解して、それぞれに現代的な手法を当てはめる。例えばじゃがいもは蒸してから低温で仕上げることで崩れにくくし、じゃがいも本来の甘さを引き出す。牛肉は短時間で旨味を閉じ込めるために軽く焼き目を入れてから、出汁でさっと煮る。

甘みと塩気のバランスは現代の嗜好に合わせて調整するが、単に砂糖を減らすだけではなく、昆布や乾椎茸で深い旨味を補う。透明感のある煮汁を保つためにアクを丁寧に取る一方で、香り付けには仕上げに少量のごま油や柚子皮を使って古い味に新しいアクセントを加える。また、盛り付けや食感の工夫として、固めに下茹でした根菜を薄切りにして食感を残す、あるいは煮汁を軽く煮詰めて艶を出すなど、見た目と口当たりを現代風に整える。

結局、母の味を台無しにしないように、私は昔の調理法を尊重しつつ現代の調理技法や素材の扱いを取り入れていく。そうすると祖母の台所にあった温かさを損なわずに、新しい世代にも受け入れられる一皿になるのだと実感している。