現場で小道具の細部にこだわる立場だと、
モノクルは見た目以上に作り手の判断が問われるアイテムだと実感する。まず最初にやるのはリファレンス集めで、時代背景やキャラクター性によってフレームの太さ、金属の種類、レンズの形状が変わる。たとえば上流階級の人物なら光沢の強い金属や繊細な彫りを選び、冒険家や軍人寄りのキャラなら無骨な真鍮や簡易な留め具にする。監督や衣装担当と話して「画面でどう映るか」を詰めるのが鍵だ。
素材と製法は用途で分ける。クローズアップ用には本物感を出すためにガラスや光学用アクリルを削り出し、歪みを抑えた研磨と必要なら薄い度数の調整を施す。フレームは真鍮板のプレス成形やワイヤーワーク、最近はCNCや3Dプリントでベースを作ってから真鍮メッキや燻し仕上げをすることも多い。壊れやすいシーンやアクション用には無害で割れにくい樹脂製の“ブレイクアウェイ”を作る。複数の複製を用意しておけば、汚れの付着や紛失、破損にもすぐ対応できる。
表面加工は見た目を決定づける部分だ。古びた雰囲気が欲しければ薬品や塗料でパティーナを付け、部分的に磨き出して年季の入り方を演出する。チェーンや留め具もデザインに合わせて自作することが多く、耳に掛けるタイプやメガネのように紐で固定する仕様、短いチェーンで衣装と繋ぐなどバリエーションを用意する。撮影当日は反射対策を忘れない。ライトに映ると不自然になるので、反射を抑えるコーティングや角度調整を行い、役者が演技しやすいようにつけ外しの導線を確保する。
最後に、歴史考証と実用性のバランスを取るのが自分の楽しみだ。『オリエント急行殺人事件』のような作品だと、細部の違和感が観客の没入を損ねるから、古いカタログ写真や実物を参考にして忠実に作る。だけど画面映えを優先する場面ではディテールを強調してドラマ性を出す。どちらに寄せるかは現場の合意で変わるし、それがプロップ作りの醍醐味だと感じている。