LOGIN☆★あらすじ☆★ 閉鎖的な田舎町に転校してきた明るく人懐っこい少年・律と孤高の静けさを好む神社の跡取り・優斗。性格も境遇も正反対な2人が出会い、やがて許されざる運命に翻弄されながらも絆を深めていく。 影に蠢く異形の者たち――人の世を侵す“闇”との戦いを通じ、次第に惹かれ合う2人。お互いを生きる意味とし、深淵へと踏み込んでいく。 その果てに待つのは悲劇か、救いか。 町の穏やかな日常を背景に浮かび上がる2人の心、そしてすべてを飲み込む哀しき運命――。 日常の中に潜む異形の恐怖と儚くも美しい少年たちの絆を描いたダークファンタジー×BL。生きること、戦うこと、そして愛することの意味を問いかける、切なくも力強い物語。
View More闇より出し者共よ。
影に潜みしそれは、有り体に言ってしまえば貞操の危機。 優斗にその気は無い。至ってノーマルだ。しかし、律は性別など気にもかけないのか優斗に執着している。舐めるような目で見られて鳥肌が立つ時さえあった。きっと優斗が女でも同じように接するのだろう。その場合は更にやばい事になりそうだが。 それなのに同じ部屋だなんて。 寝室は別でも全然安心できなかった。「今からでも別の部屋にできないんですか!?」 それに応えたのは小路だ。「無理です。既に手続きは終わっていますし、部屋に空きもありません。宮前君は家事も一通りできますし、小堺君にも利はあるのではないでしょうか」 その言葉に気を良くした律が口を挟む。「そうだよ~。俺良いお嫁さんになるよ? 優斗になら全力で尽くしちゃう! 優斗は何が好きかな? お肉? お魚? 俺、優斗が喜んでくれるならどんな料理でも頑張るからね! 洗濯も掃除も任せてよ!」 そう言って胸を叩く律。 ずいと近付く顔に優斗は思いっきり引いた。「嫁ってなんだよ!? 僕は男だぞ! お前も男! そこの所を間違えるな!」 言いようの無い恐怖に引き攣りながら喚く優斗にも律は何処吹く風。にこやかに笑いながら爆弾を投下する。「ええ~。そんなの関係ないよ。今は多様性の時代なんだから。恋愛の形も自由! 俺は優斗の事大好きだよ? もう食べちゃいたいくらいに」 その顔は恍惚に浸っている。頬を染め瞳を潤ませて、律の手が優斗の太腿を撫でる。 優斗の背中がぞくりと粟立ち、息を呑んだ。狭い車内では逃げ場も無い。助けを求めるように声を張り上げた。「あ、東さん!」 その様子に東はやれやれと面倒臭いのを隠そうともせず、やる気がなさそうに律を諌める。「律。ここではやめてくれや。この車レンタルなんだしよ。汚したら追加料金取られるだろうが。そういう事は家でやれ。それにあんまりがっつくと嫌われちまうぞ? 焦らずじっくりと攻めるのが定石だ」 生々しい表現をする東にこいつもやっぱり同類かと優斗は危機感を募らせる。 そんな優斗を他所に昂る衝動を止められた律はブーたれて東に辛辣な言葉を投げかけた。「さすが片っ端から女の子にちょっかいかけて振られまくってる人の言葉は重みが違うね。でも俺はそんな失敗しないし。ね、優斗。俺達死ぬまで一緒
黒塗りの車は少年達を乗せて、山道を走る。 カーオーディオから心地よいジャズが流れ、郷愁を誘った。 この町を離れる事に後悔はしていないが、不安は消せない。優斗は人ならざる道を歩もうとしているのだから。 窓から見る景色は、既に見知らぬ物に変わっていた。買い物は隣町のショッピングセンターに行っていたが、山を越えるのは中学校の修学旅行以来の事だ。初めは生い茂る森と曲がりくねった道を物珍しげに見ていたが、変わり映えしない風景に早くも飽きてきていた。新幹線の乗り入れる最寄りの町までは、まだ遠い。 優斗はちらりと視線を移す。 ハンドルを握るのは四十前半の男性、陰陽寮技術部の所属で律の父親役をやっていた人物だ。 名を東公太。 律には多少劣るが高い身長に白髪混じりの短髪と丸眼鏡が印象的で、祖父達に対する物腰は柔らかく、本当に律と同じ陰陽寮所属なのかと疑ってしまった。しかし、普段の口調は粗野で共切の話になると途端に目の色を変え、早口で捲し立てる様は狂気じみていて、やはりどこか浮世離れしている。 その隣に座る女性も同じ印象だ。 こちらは情報部所属の小路美津代。 母親役をやっていた女性で、長い髪をポニーテールにして背に流し、一重で切れ長の目はキツいが和風美女とも言える。東とは違い、無口で無駄口を叩かない事務的な喋り方をする人物だ。それでも似通った印象を持つのはやはり目つきのせいだろう。表情はにこやかでも目が笑っておらず胸の内を覗かれているようで落ち着かない。 そんな二人との出会いは表向きには何の問題もなく終わった。神社に迎えにきた三人が母と祖父に挨拶する間も特に何も。 優斗は少しだけ、母や祖父が何か言ってくれるのではないかと期待していた。優斗が父の元へ行くと言った時は黙って送り出してくれたが、孫を、息子を危険な目に巻き込んだのだ。文句のひとつも言ってくれるかと、そんな期待を。 しかし、そんな優斗の気持ちとは裏腹に母も、祖父もただ頭を下げるだけだった。 優斗だって、自分で決めて何も言わずに出てきたのだ。それなのに勝手な期待を持つのは筋違いだろうと、己を叱責する。車に乗り込む間際に母が抱きしめてくれた。それだけでも報われるというものだ。 優斗は小さく息を漏らすと、再び窓の外へ意識を向ける。す
「行ってしまいましたね」 ぽつりと呟くのは母、佐江だ。 神社の鳥居の下で哉斗と並んで山を眺めている。その視線の先には息子の影を見ながら。 哉斗もじっと見据えたまま口を開く。「佐江さん。すまない。玲斗に続き優斗まで」 その言葉に佐江はゆっくりと首を振る。「いいえ。私も共咲に繋がる者です。玲斗さんと結婚した時から覚悟はしていましたから。お義父さんが気に病む必要はありませんよ」 気丈に振る舞う佐江の言葉に哉斗は自身の不甲斐なさを痛感する。 二人は律の訪れに関して玲斗から知らせを貰っていた。化け物退治についても同様に。それでも敢えて優斗には告げずにいたのだ。 己の目で見て、決めてほしかったから。 玲斗が寄越したあの律という少年から事情は聞いていたかもしれないが、優斗は自分達を責める事は無かった。 優しい子だ。 心配をかけたくなかったのかもしれない。 特に佐江には。 旅立つ際にもただ父の所に行くとだけ言い、理由は話そうとせずただ哉斗をじっと見つめていた。 悍ましい化け物との戦いに理不尽にも巻き込まれたというのに。幼さの残る孫が一人で立ち向かおうとするその姿は痛ましく、これから歩む道を思えば胸が苦しい。 でも。 その隣には初対面の時とは顔つきの違う少年が寄り添い、その眼差しに優斗を護るという強い意志が感じられた。 二人共にまだたった十五の少年だ。 遊びたい盛りだろうに、その背には幾億の命が背負われている。 だが、あの二人なら大丈夫。 お互いを支え合い生き抜くだろう。 そう思わせる何かがあった。 滲む涙を拭う佐江の肩を叩き、哉斗は孫の背中を見送った。
その日、三人の男子生徒が姿を消した。 一人は行方不明に、もう二人は引っ越したと言う。 しかも引っ越した一人は、つい最近転校してきたばかりだった。それが二人揃って引越しとは、どうした事だろう。 誰かは、行方不明になった少年を二人が殺したのだと言った。 誰かは、許されざる恋に二人で手を取り合って逃げたのだと言った。 様々な憶測が飛び交う中で、一年二組の教室は騒然としたが、それも日が経つに連れて過去の話題となっていくだろう。それは人の世の常と言える。 そんな喧騒から離れ、田畑が広がる町を見下ろす高台に、ふたつの影が並んで立っていた。「お母さん達には言って来たの?」 長身の影が問いかける。「あぁ、父さんの所に行くって言ったら分かったって」 小柄な影が、それに応えた。 長身の影が『そっか』と呟くと、ふたつの影は側で待つ黒塗りの車に乗り込む。 次にいつ帰ってこられるか、それは分からない。 もしかしたら、二度と帰る事がないかもしれない町並みを眺めながら、車は遠ざかっていった。 今ここに、一人の鬼切りが産声を上げた。 それはまだ小さな決意。 今はただ友のため、刀を握る。 闇の道を歩き始めた少年は、どこへ向かうのか。 その目は何を見るのか。 まだ少年は知らない。