踏み絵の瞬間をどう映すかで作品の感触がガラッと変わる。俺がよく考えるのは、視点の主体を誰に置くかだ。被験者に寄り添えばその心理がモノローグのように伝わるし、
傍観者の視点を貫けば社会的圧力や群衆心理が前面に出る。画面の編集リズムも重要で、短いカットを連ねると動揺やパニックを生み、長回しにすると時間の重さと決断の重圧が際立つ。
衣装や小道具で信仰の厚みを示すのも手だ。踏み絵そのものの彫りや絵柄、汚れ具合がその人物の歴史や信仰の深さを暗示する。照明は人物の道徳的闇を作るための道具でもある。輪郭を強調して像との距離を見せたり、影を落として選択の陰影を描いたりする。演技的には「踏む」「踏まない」の二択を見せるだけでなく、踏む直前の身体の固さや、その後の震えに注目させる指示を出す。
音楽の使い方は慎重だ。奨励や糾弾を明示したくなるとき、映画'The Mission'のように宗教と暴力の対比を音で補強する例を参考にすることがあるが、過度に劇伴を当てると観客の判断を誘導してしまう。最終的には、俳優の微細な表情と編集の呼吸で観客の共感をどう引き出すかが勝負だと思っている。