驚くほど派手に見える場面の裏には、現実とのギャップがいくつも潜んでいるんだ。時代劇での
火打石シーンは視覚的なインパクト重視で作られていて、スクリーン上の一撃で大きな火花が飛び散り、即座に火がつくように描かれることが多いけれど、史実ではそこまでドラマチックではない。火打石(燧石や火打ち石)と打ち金で火花を飛ばすのは確かに伝統的な方法だけど、火を起こすためには火花を受け止めるための準備や時間、熟練が必要になるんだよね。
本来のやり方をざっくり説明すると、火打石で出るのは針のように小さい赤い火花で、それをそのまま炎にはできない。火口(ほくち)と呼ばれる火種用の材料、例えば炭化させた布や綿、細かくほぐした麻の繊維などにその火花を受け、丁寧に吹き込んで炎へ育てていく必要がある。さらに吹き竹や細い息で火を育てるという作業も重要で、短時間で済むどころか何度も打ち続けることが普通だった。打ち金や火打石を収める『火打箱(ひうちばこ)』が携行品として使われ、そこには火打石、打ち金、火口がきちんと収納されていたというのも面白い点だ。
映画やテレビで見られる誇張は大抵、視覚効果やテンポの都合から来ている。監督は「一振りで火がつく瞬間」を見せたいから、実際には小さな火花しか出ない場面でも大きな火花を合成したり、粉末や小型の火薬を使って派手に見せたりする。だから刀剣劇の合間にさらっと火を点けているように見えても、当時の人々がいつでも即座に火を扱えたわけではない。加えて時代によって道具の形や材質も変わっているから、鎌倉〜江戸期で使われていた細かな差も正確に描かれているとは限らない。
見分けるコツとしては、火口の扱いや火打箱の有無、打ち金の形、火花の色や量に注目するといい。文化財や民具の展示で実物に触れると、映画と実物の差がよくわかる。個人的には、時代劇でそういう小物に気を配っているカットに出会うとニヤリとしてしまうし、細かい道具の描写が史実に忠実な作品はやっぱり味わい深いと思う。