地名や考古学の視点から接近する研究も面白い。瀬戸内海や日本海の島々には『鬼』を含む地名が
散在し、たとえばある島の伝承記録や発掘報告書を突き合わせると、伝説と実物資料が出会う瞬間がある。私自身、ある島の地名史を調べたことがあり、その過程で鬼伝承が集落の移動や外来勢力との衝突の記憶を内包しているケースに出くわした。
官史的な律令や令制下の記録、例えば『延喜式』に示されるような地域名や海路の記録と照合すると、ある時期に海上交通や海賊行為が頻繁だった地域で鬼伝承が濃くなる傾向が見える。こうした物証と地名学の結びつきは、伝説の地理的な起源を説明するうえで有力だと感じる。
だから私は、伝承学だけでなく地名学や考古学報告を並行して読むことが不可欠だと考えている。