私は' De praestigiis daemonum 'のような近代初期の反悪魔論的著作も重視している。そうしたテキストは、悪魔的解釈に対する医学的・心理学的反論を示しており、民間伝承が専門的知識と遭遇した結果どう変貌したかを示す好例だ。また言語史の手法で語源や語形変化を追うと、同じ現象が別の語彙で呼ばれている事例が多く、それが地域間での伝播や同化を示唆している。
僕はカルロ・ギンズブルグの微視的歴史学的手法が示すように、個別事件の詳細な分析が大きな意味を持つと思っている。たとえば' The Night Battles 'で示されたような、地方の祭礼や夢に関する語りが異端視や悪魔化とどう結び付いたかという視点は、サキュバス研究にも適用可能だ。さらに古代メソポタミアの文献、たとえば'Epic of Gilgamesh'などに見られる女性的精霊(類似の存在)がどのように後世へ伝播し、地域ごとの信仰と混交したかを比較することで、系譜が見えてくる。
また、解釈の層も多彩です。文化史的なアプローチは、サキュバス像が性にまつわる不安や男女関係、階級や宗教的規律の表象として読み替えられてきたことを強調します。マイクロヒストリーや比較民俗学(たとえば『The Night Battles』や『Motif-Index of Folk-Literature』に代表されるような方法論)は、局所的な慣習と広域的なモチーフの相互作用を示します。さらに近現代の研究では、睡眠麻痺や幻覚(いわゆるハイポナゴギア)という神経学的・心理学的説明も取り入れ、体験の主観面と文化的語りの相互作用を統合的に説明しようとしています。古い悪魔学の記述を精神医学的に読み替える試みは、エルネスト・ジョーンズらが精神分析的に扱った伝統にもつながります。