平安宮廷のリアルを考える時、清少納言が記した「にくきもの」の段が興味深い。格式ばった場の裏には、虫が食った装束や、顔を合わせたくない同僚への愚痴といった、普遍的な人間の本音が存在した。
彼女の文章からは、当時の女性たちが如何に鋭い観察力とユーモアを持っていたかが伝わる。中宮付きの女房として、政治的な駆け引きに巻き込まれながらも、季節の移り変わりや自然の美しさを楽しむ余裕があった。『枕草子』が千年経っても読まれる理由は、こうした人間味あふれる描写と、王朝文化の核心を突いた表現にあるのだろう。
特に、夜更けに聞こえる牛車の音や、
御簾越しに見える袖の色といった、五感で感じた記憶の描写が秀逸だ。