ページをめくると、古い恋歌が現代の路地や地下鉄に息づいているように感じます。そこで面白いのは、
在原業平の情感を物語の一場面やキャラクター造形に組み込む作家たちです。登場人物が和歌を引用したり、短歌的な一行で心情を表現したりして、物語全体のリズムを古典と接続させる手法が増えています。
漫画や若手作家の連作短詩では、言葉そのものをポップに再構成する試みが目立ちます。たとえば紙面に和歌の断片をコマ内で反復させ、視覚的なリフレインをつくることで原歌の余韻を現代の読者に届けるやり方がある。自分も何度かそういう作品を追ってきましたが、短歌をキャッチフレーズのように使って日常の場面に落とし込むと、古典が驚くほど近いものに感じられます。
また、現代語訳に留まらず詩行の改変で別の語彙圏に移すことで、原歌の主題をフェミニズムや都市孤独と結びつける作品も出てきています。個人的には、古い詩情が若い作家の言葉で再生されるさまを楽しんでおり、そういう多様な読み替えがこれからも増えていく予感があります。