十字軍の物語を映画で描くなら、まず視点の分散から始めるべきだと考える。
私は戦場の英雄だけでなく、宗教指導者、商人、農民、捕虜といった多様な立場を交互に見せることで、倫理的葛藤の層を自然に示せると思う。そうすると戦闘の栄光と同時に、信念と利害の衝突、誤解から生まれる暴力、そして罪悪感の形が浮かび上がる。個々の小さな選択が全体の悲劇へと連鎖する様を丁寧に描くことで、単純な善悪二元論を壊せる。
たとえば『キングダム・オブ・ヘブン』のように歴史的大事件を背景にしても、カメラは常に誰かの顔に寄り添い、その沈黙や震えを拾うべきだと思う。音響や静かな間を効果的に使い、祈りの場面や交渉のテーブルが戦場と同じ重さを持つことを観客に感じさせれば、倫理の葛藤は説教ではなく体験になる。個人的には、そうした細部の積み重ねが映画を強くすると思う。