刃の短さが逆に生む緊張感は、視点を研ぎ澄ます格好の材料になる。
近距離での攻防は感情の層が厚く、私はまず呼吸や動悸といった身体的な反応を通して心理を表現することが多い。
短剣はあくまで手元の道具であり、相手との距離感や心の揺らぎがそのまま描写に出る。視線の合わせ方、掌の汗、刃を納める瞬間のためらい――こうした細部を積み重ねると、読者は「なぜそこに短剣を向けたのか」を自然に感じ取ってくれる。例えば『ディスオナード』のような密やかな暗殺劇を想像すると、短剣を扱う者の内面は計算と恐怖が同居していることが見えてくる。
次に意図の違いを明確にする。攻撃のための短剣、守るための短剣、象徴として握られる短剣――それぞれで思考のトーンが変わるので、内的独白や回想を差し挟んで動機を補強すると効果的だ。私は場面ごとに「何を失うことを恐れているのか」「何を守りたいのか」を常に問いかけながら描くようにしている。こうして臨場感と信憑性を両立させると、短剣の一閃が単なるアクション以上の意味を持つようになる。