百回後の結末毎回、夫の南野和紀(みなみの かずき)が、不治の病にかかった幼なじみの堀之内衣織(ほりのうち いおり)に付き添って行くたびに、彼は私に「離婚できないか」とほのめかしてくる。
衣織が死ぬ前に抱いている一番の願いは──「和紀の本当の妻になりたい」ということだから。
今日もまた、彼は同じようにそれをほのめかしてきた。
私は泣きもせず、怒りもせず、ただ淡々と「いいわ」と一言返した。
こうした会話は、すでに99回も繰り返されてきたからだ。
そして今日は、ちょうど百回目。
ようやく私も、自分を納得させる離婚の理由ができたのだ。
──私と和紀の子どもが流産してしまったから。
今、私と彼の間に残っているのは、薄っぺらな戸籍謄本だけだ。