原稿を読んでいる最中に
酔っ払いのシーンが続くと、つい画面の見せ方について細かく考えてしまう。僕は過去に一度、物語のムード作りのために飲酒シーンを重ねた結果、登場人物の行動が正当化されてしまった経験がある。そこから学んだのは、酔いを“象徴”にする場合でも現実的な影響を書き添えることの重要性だ。
編集として注意しているポイントは三つある。ひとつは、酩酊がキャラクターの性格や能力を無根拠に変化させないこと。ふたつめは、暴力や性的同意に関わる場面では被害者の視点を
蔑ろにしないこと。みっつめは、回復や反省のプロセスをどこかで示してバランスを取ることだ。例えば、登場人物が翌朝の後悔や周囲との軋轢に直面する描写を入れるだけで、飲酒の軽率な美化を避けられる。
演出の微調整や台詞の置き方で大きく印象は変わるし、読者の誤解を招かないようにするのが編集の腕の見せどころだと感じている。