酔いの描写はリズムの問題だ、と昔から考えている。
演出は動きと音のテンポをどう崩すかで勝負がつく。まずはカット割り。長回しでだらっと見せることで時間の伸びを表現することができるし、逆に短いカットを重ねて
錯乱した思考を示す方法もある。音楽はジャストで止めずに少しだけ遅らせる、あるいは余韻を伸ばすと、観客の体感時間が変化して酔いのリアリティが増す。声の作り方も重要で、完全なスラングや崩しではなく、ふとした瞬間に起こる言い淀みや言葉の省略が人間らしさを出す。
視点演出では第三者視点と主観視点の往復を多用するのが効果的だ。俯瞰での滑稽さを見せた直後に主観に切り替え、世界が近づいたり遠のいたりする描写を挟むだけで、観客は酔いの主観を追体験できる。光の扱いも忘れてはいけない。色温度やコントラストを微妙に変えると、酩酊による感情の揺らぎを視覚的に表現できる。『カウボーイビバップ』のように音楽そのものがキャラクターの状態を代弁する作品は、酒に酔う瞬間も音楽で補強して見事に成立させていると思う。