原稿を開くとすぐに、どの表現が流れを壊しているかが目に入ってくることが多い。経験上、削るべきかどうかの判断は感覚だけでなく、文脈と目的を照らし合わせたときに決まる。まず最初に考えるのは読み手の注意を奪うかどうかという点だ。つまり、冗長で読者の理解を妨げる、あるいは作品のトーンにそぐわない言い回しは候補になる。
次に、その表現が著者の個性や物語の核に貢献しているかを見極める作業に移る。『吾輩は猫である』のように意図的に独特な語り口で空気を作っている場合は、
野暮に見えても残す価値がある。一方、説明過多や過剰な形容が作品のテンポを落とすなら、削りや言い換えを提案することが多い。
最後に実務的な判断基準としては、制約(字数、納期、媒体)や対象読者層との整合性がある。編集は作者と対話する場でもあるので、単に削るのではなく、なぜ削るのか、どうすれば意図を損なわずに改善できるかを説明して合意を取るようにしている。それが一番自然に物語を輝かせる方法だと考えている。