教室での最初のルールは「失敗を描くこと」だという空気づくりだ。
子どもたちが
スケッチブックを前にして固まる瞬間を、私は何度も見てきた。だから最初の授業では、紙を埋めることよりも手を動かすこと、薄い線で描いて消すことを褒める。具体的には丸や四角を使った形遊び、短い観察ゲーム、音楽に合わせて30秒スケッチを何度か繰り返すなど、プレッシャーを抜くアクティビティを取り入れる。これで「スケッチブック=試験」ではなく「記録帳」だと感じてもらえる。
実践の流れはだいたいこうだ。まず基本ツールの扱い方、鉛筆・消しゴム・紙の特徴を見せて触らせる。次に対象を分解して簡単な形で捉える練習、最後に自由題材で15〜20分描かせ、終わりに一人ずつ軽く感想を述べる時間を作る。完成度よりも過程を評価するコメントを繰り返すことで、子どもは自然に描く意欲を高める。
モチベーション維持には物語の力も使う。たとえば『となりのトトロ』の場面を短く示して「この草むらにトトロがいると思って描いてみて」と促すと、想像力が膨らんで線も自由になる。こうした導入を積み重ねると、スケッチブックは技能練習の場であると同時に、個々の記録や実験の場になる。最終的には自分で戻って見返すことで上達を実感できるようになり、そこが一番嬉しい瞬間だ。