茫漠とした
情景を描く作家として真っ先に思い浮かぶのは村上春樹ですね。『羊をめぐる冒険』の砂漠の描写や『海辺のカフカ』の入り組んだ森の情景は、読者を文字通り別世界に連れていく力があります。
村上作品の特徴は、具体的なディテールと抽象的な雰囲気を巧みに混ぜ合わせるところ。例えば砂漠の描写でも、単に砂丘が広がっていると述べるのではなく、『砂の粒が風に乗って膝の高さまで舞い上がり、遠くで何かがきしむような音がした』といった具合に、五感に訴えかける表現を多用します。これによって、物理的な風景以上の心理的な広がりが生まれるんです。
もう一つのテクニックは、情景とキャラクターの内面をシンクロさせること。『ノルウェイの森』で主人公が歩く大学のキャンパスの描写は、その時の彼の孤独感と見事に重なり合い、風景そのものが感情を帯びてきます。こうした書き方は、単なる背景描写を物語の一部に昇華させます。