LOGIN小学六年生の時、両親はそれぞれ別の相手を選び、俺を置いて去っていった。 心に傷を抱えたまま生きる俺は、中学一年から夜の街を彷徨うようになり、いつしか『蒼華』と呼ばれるようになる。 誰にも縛られず、誰にも執着しない。 それが俺の生き方だった。 そんなある夜、一人の男が俺に声をかけてくる。 夜の街では許されない、その行為。 ――金狼と呼ばれる男との出会いが、止まっていた俺の時間を動かし始める。
View More俺の名前は
そして、この髪と瞳のせいでついたあだ名が蒼い華。
俺の家庭はとっくの昔に冷めている。
俺が小5の時に両親が不倫を始め、小6の春になったころ、二人は俺を置いて不倫相手の元へ行ってしまった。
一人残された俺は心が壊れて夜遊びを覚えた。それが中学を上がる少し前のこと。一人、夜の相手を探すように彷徨うからついたあだ名が彷徨う蒼い華。
色んなことを覚えたなぁ。女遊びも、酒も、煙草も。
でも、どれも俺の荒んだ心を満たしてはくれなかった。今でも心は荒んだまま。 もう戻れないのかな? こんな俺でも子供心に色んなことを考えたわけさ。どうやったら両親の心を自分に振り向かせることができるかってね。で、行きついたのが勉強だったわけ。テストでどんないい点数を取ろうが、どんなにいい成績を取ろうが、両親は俺のことなんて見向きもしなかった。
もう俺の存在なんてあの2人の中には残ってないのかもね。生活費と必要最低限のモノだけを与え続けられてるんだから…。
本当は気が付いてたよ。両親が俺のことを嫌ってるの。俺がこんな姿だから…。
気が付いちゃったんだよね、両親がいなくなってからさ。 だから俺はあの2人にとって存在価値がないんだ。存在価値がないのは俺自身。誰にも必要とされていないんだから…。これでもさ、学校だけはちゃんと行ってる。
俺の通ってる学園は聖青葉学園、県内じゃトップクラスの進学校。偏差値メチャクチャ高い。
それだけあって勉強にはかなり力を入れてる学園だよ。中学校の担任に薦められて決めたんだけどさ、俺がどんなにいい学校に進学しても両親は無関心なまま。 ホント笑っちゃうよね。俺ってあの2人にとって何? こんなんだから俺は一人夜になると街を彷徨う。だからついたあだ名が彷徨う蒼い華。蒼華。 俺は華ってガラじゃないんだけどね。俺はそこまでキレイなヤツじゃない。 この手は薄汚れた血で染まってるんだから…。でも、夜の街を彷徨う俺に危害を加えようものなら夜の街の掟が許しちゃくれない。
俺は夜の街に君臨する暴走族ZEAに守られているから。ZEAの頭とは旧友だからね。しかも幼馴染なんだよね。 この街には夜の掟が存在する。それは不良たちや暴走族の中にだけ決められた掟。 その掟がある限り、誰も蒼華に手を出すことはできない。蒼華に手を出せばそれ相応の報復が待っている。 それが夜の街の掟。さぁ、今宵も一人淋しく夜の街を彷徨おうかなぁ。
どうせ、家にいたって一人だしさ…ふと目が覚めた。なんでこんな時間に起きちゃうんだろうな。俺は拓ちゃんを起こさないように、そっとベッドから抜け出し、リビングに行く。ソファに座り、膝を抱えた。ただジッと、そうしていた。月が見える。そういえば、ここ3階だっけ…。「ふふんふんふん~♪」俺は自然と、あの音楽室で最後に弾いた曲を口ずさんでいた。「そうやって。また俺の前から消えるのか?」そんな声が飛んできて、驚いて振り返れば、拓ちゃんがリビングの入り口に凭れて立っていた。「あ…ちが…違う…」あぁ。やっぱり貴方は、あの曲の意味を知ってたんだね。あれが永遠の別れの曲だって……。「じゃぁ、どうした?」拓ちゃんが静かに聞いてくる。少しの沈黙。ほんと少しだけ……。「怖くて…ごめん…なんか怖くてさ……こうして拓ちゃんの傍にいられるのが信じられなくて…」俺にしては珍しく、素直に気持ちを口にする。いつもなら隠すんだけどな…。「俺は、お前がまた俺の前からいなくなるのが怖い」拓ちゃんがそう言ってくる。俺は何も言えなくて、自分の膝に顔を埋める。いなくなるつもりはないけど……でも、傍にいてもいいのかわからなくて……拓ちゃんは傍にいろって言うけど……ダメなんだよ…心が…壊れちゃってるから……新しい傷口が広がってるから……凄く臆病になってる。特に拓ちゃんが相手だから……余計にさ……臆病になってるんだ……。この人を裏切ったのは俺。姿を消したのは俺。逃げたのは俺。だから怖い。本当にいてもいいのかどうか……拓真の言葉を信じてないわけじゃない。ただ、本当に怖いだけ……。人に傷付けられるのには慣れてるんだけどな…何度も裏切られてきたからな…拓ちゃんが相手だと……それが凄く怖い……だって…俺…今でも拓ちゃんのこと好きだから……大好きだから……そんな言葉じゃ足りない……愛してる……何度も心がそう叫んで、拓ちゃんを求めた…でも、裏切ったのは俺自身。今更、虫がいいことなんて出来やしない…。拓ちゃんは俺の傍に来ると、俺を抱き上げ、寝室へと戻っていく。「た…拓ちゃん? …」いきなりすぎる行動で判らない。拓ちゃんは俺をベッドに押し倒すと、「俺の事しか考えられなくしてやる」そう言って、奪うようにキスをしてきた。久し振りに感じる拓ちゃんの唇。熱
「いい加減、出てこい」拓ちゃんが静かに告げてくる。俺は立ち上がると噴水から出て、拓ちゃんの手にペンダントを乗せる。「これ、あんたにとって大切なもんだったんだろ? だったら、あんたがちゃんと持ってろよ」そう告げて、俺は踵を返し歩き出す。「俺が持っていて欲しいのは、お前にだ。蒼樹」その言葉に足が止まってしまう。 あぁ。ほんと俺って拓ちゃんには弱いな…。「俺は…俺には持ってることが出来ない。だから返したんだよ」俺は後ろを向いたまま告げる。俺が持ってるわけにはいかない。 闇に染まった俺が…。そんな大事なもの…。「大事だから…だから一番大切なお前に持ってて欲しいんだ、俺は!」拓ちゃんがいつになく感情的に言う。 いつもクールなのにさ。「あなたは俺に何を求めてるんだ? あなたは…俺をどうしたいんだ? 俺はみんなにとっては邪魔者なんだよ?」俺はみんなにとって、ただの邪魔者……何の価値もない俺。実の親ですら捨てたんだから……。そんな俺に何を求めるの?何がしたいの……。「他の奴がお前のことを邪魔者だと思っても、俺にとってはお前は大事な奴だ。俺の傍に置いておきたいほどな。俺は今でもお前が好きだ」貴方は変わってるね…。「それでも…俺は…」俺は…俺は…。「お前が気にしてるのは神谷のことか? あいつのことなら最初からお前を狙ってきてる奴だって知ってたよ。苗代に情報貰ってたし。俺自身も色々調べたからな」拓ちゃんがそう告げてくる。嘘…知ってたのか…。「じゃぁ…なんで! なんであんなこと…」あんなことしたんだよ……。「お前を守りたかった。俺の手で…。でもそれが出来なかった。結局、お前を助けることが出来なかった。俺は二度もお前を助けることが出来なかった。自分が情けない。ずっとお前のこと守るって決めてたのに…結局はお前が自分で片付けちまった。情けない男だ、俺は…。お前に嫌われるのは当たり前だよな…」知らなかった…。拓ちゃんがそんなこと考えてたなんて……。拓ちゃんが俺のこと守ろうとしてくれてたなんて……。俺は…俺は……。「…嫌いじゃない……嫌いになれたら…すごく楽なんだろうね…」嫌いになれたなら……こんなにも胸が苦しくならないのに……。「蒼樹……俺は誰がなんと言おうとも、お前が好きだ」 あなたはこんな俺を必要としてくれるのかな
朝は点滴。夜は公園。そんな日が何日か続いた。だって行く場所ないし……。 蒼華を消すために、俺は黒い髪に黒い瞳でいるわけだしね。だから今夜も、公園のいつものベンチに座ってた。 膝を抱えて、自分の爪先を見つめて、じっと時間が過ぎるのを待ってた。 ただただ時間が過ぎるのを……。 「隣いいか?」急にそんな声をかけられる。 驚いて見てみれば拓ちゃん。「どうぞ」俺はそう答える。でも声が掠れてるや。「よく此処にいるのか?」そう聞かれる。 俺は爪先を見たまま、「ううん。俺、最近この街に引っ越してきたばかりだから…。ここってなんか落ち着くよね…」嘘を見繕う。 お願いだから俺だってばれないで…。「そうか…。一つ頼みごとしてもいいか?」そんなことを言われる。「俺に出来ることならいいけど?」俺はそのままの体勢で答える。「もし…この場所で蒼い髪に蒼い瞳をした、お前ぐらいの奴を見かけたら、この手紙を渡してくれないか?」拓ちゃんはそう言って、俺に手紙を差し出す。「もし逢わなかったら?」俺はそう聞いてみた。「3日後。また俺が此処に来る。その時に返してくれ」拓ちゃんはそう言う。 俺はその手紙を受け取り、「逢うか判らないけど…一応預かっとくよ」そう答える。ほんと、俺なんて忘れてしまえばいいのにね…。「すまんな。頼む。じゃぁ、邪魔して悪かったな」拓ちゃんはそう言って帰っていった。「俺に手紙なんてな…」一人になってポツリと呟く。でも…無事に退院できたんだ… よかった…。あの人がちゃんと生きててくれたのなら…… それだけでいいや…。俺は溜め息をつくと、その手紙を持って立ち上がった。でもね、跡を付けられるのもいやだから、わざと遠回りしたり、いろいろな道を使って家に帰ったんだ。知られるわけにはいかないからさ。 今、この場所に住んでることを…。だから遠回りとかして帰ったんだ。人を撒くなんて俺には簡単なんだ。 この街を彷徨い続けた俺にはね…。俺は部屋に入り、溜め息をつき、手紙を前にして戸惑う。これを開ければ何と書いてあるんだろうか?開けるのが怖い。「おし!」俺は意を決して手紙の封を開けた。中から出てきたのは、手紙と俺が拓ちゃんに返したペンダント。どうして? なんで?俺は急いで手紙を読んだ。 『蒼樹へ今お
俺は次の日から、拓ちゃんの所に花束を持っていった。でも拓真に逢う勇気がなくて、花束と『ごめん』と書いた手紙を一緒に持って、「あの…すみません。これ、金城拓真くんに渡してもらえますか?」ナースステーションの看護師に頼む。「金城くん? いいですけど。彼ならもう目が醒めてますよ?」看護師さんはそう教えてくれるけど、「いいえ…いいんです…お願いします」俺はそう頭を下げ、その場を離れる。「あ…君、名前は…」なんて呼ばれるけど、俺はもう一度頭だけ下げ、その場所を離れた。 俺が逢っちゃいけないんだ……。俺が逢っていい人じゃないんだ……。俺が関わっちゃダメなんだ……。 俺は拓ちゃんの家の病院を後にして、自分の点滴をしに行く。 ボーっと点滴の液を眺める。あとどれだけ俺はこの生活を続けるんだろ? 俺はどれだけ薬漬けの生活を続けるんだろ?一生無理なのかな……もっとも、この身体じゃ当たり前か……。ボロボロだもんね……こんな身体……なくなっちゃえばいいのに……俺なんていなくなっちゃえばいいのに……俺には何の価値もないんだから……。 俺は点滴を終えると、いつものように街を彷徨う。 といっても、俺はプチ変装中だから誰も気付かないけどさ…。ほんと…俺って何やってんだろうね?こんなことやってても仕方ないんだけどね。 でも何も考えられないから、こうやって彷徨ってるのかな。ほんと…虚しい…俺の人生ってなんだったんだろうね……。考えるだけでアホらしいけどさ……。ほんと、あほらしい……。 拓ちゃんの病院に花束と手紙を持っていくのが日課になった。今の俺に出来ることはそれだけ。決して本人には逢うことは出来ない。逢わす顔がない。だからいつもお願いする。 「あ…君、待って。これ、金城君から預かってるの。それと彼ね、3日後には退院できるから一度だけでも逢ってあげたら?」看護師がそう言って差し出してきたのは、一通の手紙。俺はそれを受け取り、「ありがとうございました」頭を下げ、その場を後にする。そして、いつものように自分の点滴をしに行くのだ。「拓ちゃんから手紙か…」手に持った手紙を見て、ポツリと呟く。 今此処で開く勇気はない。帰ってからかな……。 点滴を終え、俺はいつもならふらつく所だけど、手紙が気になったから家に帰った。
東棟から西棟の教室に戻ろうと思って階段を下りてたら会長さんが壁に凭れて待ってた。 「ごめんね? 俺のせいで会長さんにも迷惑がいっちゃったでしょ?」 俺は小さく笑いながら聞いてみた。俺のとこに来たってことは会長さんの所にも行ったってことだし… 「俺は大丈夫だ。お前は? 大丈夫か?」 会長さんに反対に聞かれちゃったや。 「大丈夫だよ。迷惑かけたのはこっちだしさ。ごめんね?」 俺はぺこりと頭を下げた。間違いなく、俺が起こした行動で彼に迷惑をかけたのだから謝るのは当たり前だからね。 「お前からのごめんは聞かないって言っただろ」 なんて言われてしまった。 「それじゃぁ言葉がないよ会長さ
「で? マジでどうしたんだ? お前が間違えるなんて珍しいだろ?」 急に真面目な顔をして翔太が聞いてくる。 「なんでもないって。今日はマジで間違えたの。あっ、昨夜さぁ金狼さんに会ったよ俺」 俺は窓の外を見ながら答える。ホントにただ間違えただけ。 だから、それ以外に深い意味はないんだ。 「マジで? 俺も逢いてぇ~!」 金狼さんは夜の街では有名な人で、でもなかなか逢えないのだ。神出鬼没だからさ彼。 あぁ、翔太が別世界にトリップしてやがる。 「翔ちゃん彼女は元気?」 翔太の指にリングがはまってねぇ。彼女にもらったヤツが…。 「ん? あぁ、別れた。二股かけてやがってさ、ブチ切れてリン
俺は近くのバス停まで歩いていく。いつもの時間のバスに乗り込み小さく息を吐いた。 俺の家から学園までバスで2駅。歩いていけない距離じゃない。だけど俺はバスで行く。 特に意味はないけど、ささやかな反抗かもね。両親に対してさ。学園の前でバスが停まり、俺はバスから降りため息をつく。俺が俺でなくなる瞬間。偽りの織田蒼樹になる瞬間。 「うっし」 俺は一人、納得をして歩き出した。 「おっはよ~っす!」 そんな声と共に思いっきり背中を叩かれた。 「いってぇ~! いてぇんだよ翔太!」 俺は背中を殴ってきた犯人を睨みつける。俺に朝からこんなことをするのは決まってる。俺の旧友で幼
公園で金狼さんと別れた俺は一人帰路へと着く。 ほんと、気乗りしない道のり。帰ったって誰もいないんだから…。 あぁ、帰りたくない。 家につけば真っ暗だった。あぁ、やっぱり今夜もか。 外灯も、門灯もいつ頃から着かなくなったのか?今宵もこの家で俺は一人。俺はため息をつき門を開けて中に入りポケットの中から鍵を取り出して、玄関の鍵を開け家の中に入った。シンとしている家の中。真っ暗だ。ドアを閉め鍵をかけると靴を脱ぎ捨てて、自分の部屋へ向かおうと階段を上りかけて足を止め、キッチンへと行先を変えた。 キッチンへと入り冷蔵庫の中から缶ビールを二缶取り出し、そのままその場で一缶は一気に飲み干す。