『
蝉時雨』は藤沢周平の
時代小説で、その舞台は江戸時代の架空の藩・海坂藩(うなさかはん)とされています。作者は山形県鶴岡市出身で、作品内の風景描写には庄内地方の風土が色濃く反映されていると言われています。
海坂藩という設定は現実の地名ではありませんが、庄内平野の穏やかな田園風景や、出羽三山の麓にある城下町の雰囲気を彷彿とさせる描写が随所に散りばめられています。特に夏の暑さや蝉の声、夕立の後の湿った空気など、東北地方の風物詩が情感豊かに描かれているのが特徴です。
作中で主人公が歩く武家屋敷の長屋や、藩の役所があったとされる一画など、具体的な場所の描写からは、鶴岡城下町の古地図を参考にしたような空間構成が感じられます。実際に鶴岡市には藤沢周平記念館があり、作品世界と現実の風景が重なる展示がなされています。
蝉の鳴き声が雨のように聞こえる「蝉時雨」という現象そのものが、日本の湿度の高い夏ならではの風物詩。作品のタイトルと舞台設定は、東北地方の風土と見事に調和していると言えるでしょう。