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このプロポーズ、姉と寝た彼からだった

このプロポーズ、姉と寝た彼からだった

Oleh:  時間の歌Tamat
Bahasa: Japanese
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お姉ちゃんと私の彼氏は、ずっと相性が最悪だった。 チャラくて女癖の悪い「京市の御曹司」が、私のために心を入れ替えるなんて、ありえないって信じてなかった。 婚約が決まったあとでさえ、お姉ちゃんは二人の交際に猛反対してた。 だから私は、どうしても納得してもらいたくて―― 夜中にこっそりサブ垢を作って、彼氏を試すことにした。 玲司の返事はずっと冷たくて、どこまでも突き放すような態度だった。 ……それが、むしろ安心材料になって、私はほっとしてたのに。 そのとき、玲司から音声メッセージが届いた。 「だから言っただろ?お前たち姉妹以外、女遊びなんかしないって。 桜、そんなに欲求不満ならさ、俺が結婚したら、誰が満たしてやるんだ?」 桜って――お姉ちゃんの名前だった。

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Bab 1

第1話

お姉ちゃんと私の彼氏・九条玲司(くじょう れいじ)は、ずっと相性が最悪だった。

チャラくて女癖の悪い「京市の御曹司」が、私のために心を入れ替えるなんて、ありえないって信じてなかった。

婚約が決まったあとでさえ、お姉ちゃんは二人の交際に猛反対してた。

だから私は、どうしても納得してもらいたくて――

夜中にこっそり小さいアカウントサブ垢を作って、彼氏を試すことにした。

玲司の返事はずっと冷たくて、どこまでも突き放すような態度だった。

……それが、むしろ安心材料になって、私はほっとしてたのに。

そのとき、玲司から音声メッセージが届いた。

「だから言っただろ?お前たち姉妹以外、女遊びなんかしないって。

桜、そんなに欲求不満ならさ、俺が結婚したら、誰が満たしてやるんだ?」

桜って――お姉ちゃんの名前だった。

そのメッセージを聞いた瞬間、私の全身の血が凍りついた。

夢じゃないかって思って、太ももをつねったけど、痛みはちゃんとある。

心臓の音がうるさいくらいに鳴り響くなか、現実が私を殴りつけてきた。

玲司はお姉ちゃんと関係を持っていた。そして私は、その代わりだったってこと。

……そんなの、嘘でしょう?

二人って、いつも喧嘩ばっかりしてたじゃない。

お姉ちゃんはいつも玲司のことを「家柄だけで中身スカスカの遊び人」って言ってたし、

玲司はお姉ちゃんのことを「うるさいだけのトラブルメーカー」だって嫌ってた。

そのたびに私は、お姉ちゃんに「別れたほうがいい」と諭されてきた。

そのとき、スマホが震えて、思考が中断された。

玲司からの通話。私は呆然としたまま、拒否ボタンを押す。

すぐにメッセージが届いた。

【なんで出ない?

まさか、泣いてたりして?

「夜色」別荘に来いよ。今夜は俺が、たっぷり慰めてあげるからさ。

大丈夫。結婚なんて形式的なもんだから。

まどかに用意したものは、全部お前にもやるよ。

俺自身も、ね】

スマホの画面を見つめたまま、耳鳴りがひどくて、頭の中が真っ白になる。

涙が止まらなかった。

ぼんやりとした視界の中、ふと――最初にお姉ちゃんをあの別荘に連れて行った日のことを思い出した。

場所も教えてないのに、彼女は勝手知ったる様子で洗面台も収納棚も探し当てた。

お姉ちゃんのスマホはすでにWi-Fiに繋がっていて、「たまたままどかのアカウントのパスワードを入力しちゃったの」なんて言い訳してた。

それに、玲司が飼ってるコーギー。

私にはあんなにそっけなかったのに――お姉ちゃんにだけはしっぽを振って、すり寄ってた。

「まどかの匂いがついてるからかもね」って笑ってたけど……

あのコーギー、私にはそっけないくせに――フリスビーを投げようが、骨ガムを差し出そうが完全スルー。

なのに、お姉ちゃんが現れた瞬間、しっぽをぶんぶん振って喜んでた。

それだけじゃない。お姉ちゃんの部屋には、私と全く同じ限定バッグに、オーダーメイドのドレスやジュエリーがズラリと並んでる。

一部は、玲司が「お義姉さんに気に入ってもらいたいから」って、私に預けてたものだった。

でも他のは?お姉ちゃんは「追いかけてくる男たちからのプレゼントよ」なんて笑ってたけど、

私が食いつくように誰からか聞いたとき、いつもごまかすようにはぐらかされた。

そのときは、照れてるんだって思ってた……まさか、後ろめたかっただけなんて。

――前に三人でショッピングに出かけたときのことが頭に浮かぶ。

ふたりは、私の目の前でやたらと張り合って言い合ってたけど、突然笑い出して、その場の空気が和やかになることもあった。

私はそれを「やっと仲良くなってきたのかも」って、のんきに喜んでた。

……ほんとは、私が「演目」の一部で、バカにされてただけだったのに。

涙で目が腫れ上がるまで泣いて、頭もクラクラしてた。

でも、気づいたら車のキーを握って、「夜色」へとアクセル全開で飛ばしてた。

あそこは玲司のプライベートクラブで、今日は彼のバチェラーパーティーらしい。

そして――やっぱり彼は、そこにいた。

驚いたことに、お姉ちゃんまで来ていた。

私はフェンスの外から、ふたりを見つめていた。

露天のバーカウンター。玲司の顔はほんのり赤く染まっていて、目は酔いでトロンとしていた。

その腕が、お姉ちゃんの首元をやわらかく抱いて、なにか耳元でささやいてる。

お姉ちゃんはイヤそうに口を尖らせながらも、ふざけた仕草で彼のネクタイを指でくるくる巻いた。

周りの男たちが、からかうように笑って声を上げる。

玲司はふっと前髪をかき上げて、わざとらしく後ろに身を倒した。まるで、計画通りに事が進んだって顔で、イタズラっぽく微笑んでいた。

「きゃっ」とお姉ちゃんが悲鳴をあげたかと思えば、そのまま玲司の膝に倒れ込んだ。

玲司は彼女の細い腰を抱き寄せて、薄暗い照明の中――その唇に、キスをした。

空気が一瞬で変わる。

周囲からは歓声と口笛。誰かがシャンパンを開けて、誰かがスマホを掲げていた。

さらには、こんなふざけた言葉まで聞こえてくる。

「玲司、明後日には妹と結婚するんだろ?今日になって姉とイチャつくのはマズくね?」

「ハハッ、みんな、あんまり言うなよ。今夜玲司が桜とヤったって、まどかにはバレないってさ」
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第1話
お姉ちゃんと私の彼氏・九条玲司(くじょう れいじ)は、ずっと相性が最悪だった。 チャラくて女癖の悪い「京市の御曹司」が、私のために心を入れ替えるなんて、ありえないって信じてなかった。 婚約が決まったあとでさえ、お姉ちゃんは二人の交際に猛反対してた。 だから私は、どうしても納得してもらいたくて―― 夜中にこっそり小さいアカウントサブ垢を作って、彼氏を試すことにした。 玲司の返事はずっと冷たくて、どこまでも突き放すような態度だった。 ……それが、むしろ安心材料になって、私はほっとしてたのに。 そのとき、玲司から音声メッセージが届いた。 「だから言っただろ?お前たち姉妹以外、女遊びなんかしないって。 桜、そんなに欲求不満ならさ、俺が結婚したら、誰が満たしてやるんだ?」 桜って――お姉ちゃんの名前だった。 そのメッセージを聞いた瞬間、私の全身の血が凍りついた。 夢じゃないかって思って、太ももをつねったけど、痛みはちゃんとある。 心臓の音がうるさいくらいに鳴り響くなか、現実が私を殴りつけてきた。 玲司はお姉ちゃんと関係を持っていた。そして私は、その代わりだったってこと。 ……そんなの、嘘でしょう? 二人って、いつも喧嘩ばっかりしてたじゃない。 お姉ちゃんはいつも玲司のことを「家柄だけで中身スカスカの遊び人」って言ってたし、 玲司はお姉ちゃんのことを「うるさいだけのトラブルメーカー」だって嫌ってた。 そのたびに私は、お姉ちゃんに「別れたほうがいい」と諭されてきた。 そのとき、スマホが震えて、思考が中断された。 玲司からの通話。私は呆然としたまま、拒否ボタンを押す。 すぐにメッセージが届いた。 【なんで出ない? まさか、泣いてたりして? 「夜色」別荘に来いよ。今夜は俺が、たっぷり慰めてあげるからさ。 大丈夫。結婚なんて形式的なもんだから。 まどかに用意したものは、全部お前にもやるよ。 俺自身も、ね】 スマホの画面を見つめたまま、耳鳴りがひどくて、頭の中が真っ白になる。 涙が止まらなかった。 ぼんやりとした視界の中、ふと――最初にお姉ちゃんをあの別荘に連れて行った日のことを思い出した。 場所も教えてないのに、彼女は勝手知ったる様子で洗面台も収納棚も探し当て
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第2話
「これが本来の玲司ってわけか!あんなにまどかに尽くしてたの、あれ全部演技?マジで人が変わったと思ってたのに!」 絡みつくようなキスを終えた玲司が、酒の匂いをまとった声で笑った。 「俺が好きなのは、最初から最後まで桜だけだよ。 でもさ、桜っていつも誰にも本気にならないだろ?気まぐれで、ふらふらしてて……俺にだけ本気になってくれない」 薄く笑いながら、桜の頬に音を立ててキスを落とす。 「仕方ないから、代わりに妹で手を打ったってわけ。 まどかも悪くないよ。ベッドの上じゃ桜ほどじゃないけど、スタイルも顔も申し分ないし、ふぅん……」 そう言いながら玲司は桜を立たせて、バーカウンターにもたれかけさせた。 すぐ隣の誰かがジャケットを差し出し、彼はそれを桜の肩にそっとかける。 「玲司、今夜は帰らないのか?」と誰かが茶化すように訊いた。 桜がとろんとした目で彼を見上げた。 玲司はその顎を優しく持ち上げて、甘く微笑んだ。 「まどかが一番気にしてるのは彼女の姉だし、俺なんか二の次三の次。今こんなに泣きそうになってる姉を、放っておけるわけないだろ」 そう言って彼は後ろに手を振った。 「小曽根(おぞね)、まどかにメッセージ送っといて。俺が酔って今日は帰れないって。明日のリハーサルはちゃんと迎えに行くってな」 そのとき、私のスマホが震えた。 画面には彼の秘書、小曽根からの連絡が表示されていた。 【綾瀬さん、九条様は酔ってしまい、今夜は別荘に滞在されます。ご無理なさらず、お早めにお休みください。明日のリハーサルにはきちんとお迎えに上がります】 私はその場に立ち尽くしていた。 思考がぐるぐると巡って止まらない。 私たちは両親を早くに亡くして、伯父の家に預けられた。 あの家で私は、ずっと弱かった。従兄にいじめられても反抗できなくて、叔母さんも見て見ぬふり。 そんなとき、守ってくれたのはいつもお姉ちゃんだった。 私が言い返せないとき、代わりに怒ってくれた。私が泣くと、拳を握って戦ってくれた。 勉強だけは私の方が得意だった。 高校最後の年、私は毎晩お姉ちゃんの横で復習に付き合って、問題を噛み砕いて説明してあげた。 「大丈夫、将来はきっと明るいよ」なんて根拠のない夢を語って、一緒にこの街の大学を目指した
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第3話
「こちらが俺の婚約者、綾瀬まどか。宮北で最年少のジュエリーデザイナーなんだ。 彼女の作品は国際的な賞をいくつも獲ってて、王室から婚礼ジュエリーの依頼が来るほどの実力者。 今予約しようとしても、もう来年までいっぱいだよ。 いや、違うな。再来年からしか受けてないかも。 だって来年は、俺たちの盛大な結婚式があるから。もちろん、みんなも招待するから楽しみにしててね」 ……彼がくれた愛は、完璧だった。 でも、その完璧さには――致命的な欠陥があった。 たったひとつの裏切りで、すべてが瓦解するほど脆いものだった。 私はひとりでホテルの部屋に籠もり、涙が枯れるまで泣いた。 自分に言い聞かせた。 これは裏切り。それだけのこと。騙されただけ。 婚礼はまだ始まってない。すべてをやり直せる。 ここを離れて、新しい人生を始めればいい。 あんな最低な二人から、遠く離れて生きていけばいい。 ――でも、なんで私が逃げなきゃいけないの? 悪いのはあいつらなのに。痛い目を見るべきなのは、あの裏切り者たちのはず。 私が反省するべきは、誠実だったことじゃない。見る目がなかったことだけ。 私は、何も間違ってなかった。私は――ちゃんと、愛してた。 だからもう、泣いてなんかいられない。 翌日、婚礼のリハーサル。 私は予定より早く自宅に戻って、泣きはらした目をどうにかごまかしていた。 玲司が迎えに来たときには、もう私の顔には、感情の一片も浮かんでなかった。 ……なのに彼は、すぐに気づいた。 「目、赤いぞ?」そう言って、私の目尻にそっと唇を当ててきた。 私はぐっと堪えて、吐き気すらこらえながら言った。 「……両親のこと、思い出してただけ」 玲司は微笑んで、私の靴を取り替えながら言う。 「叔父さんも叔母さんも、きっと天国でお前の幸せを願ってるよ」 彼の髪の分け目を見つめながら、私は心の中で叫んでいた。 あなた、なんで私を選んだの? 一途になれないくせに、なんで婚約したの? 私がどれだけ浮気や裏切りを憎んでるか、知ってたよね? お姉ちゃんと隠れて関係を続けてたとき、私が真実を知ったらどう思うか、想像しなかった? でも、口には出さなかった。出せなかった。 玲司は、いつも周りに言っていた。
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第4話
私は身を寄せ、彼女の耳元で声を落とした。 「『夜色』に行ったよ」 お姉ちゃんの身体がビクッと震えた。火でも触れたみたいに、私の手をぱっと離す。 きっと昨夜、玲司と連絡を取ってたんだ。私が彼を試したって知ってる顔だった。 でも、まだ私が何を掴んだかまでは知らないはず。 だから今日は一日中、回りくどく探りを入れてきた。 私は心の痛みをぐっと飲み込んで、にっこり笑ってみせた。 ――わざと、悪意のこもった声で。 「ぜんぶ見たよ。あなたたちのいちゃつきも、裏切りも。 ねえ、親愛なるお姉ちゃん。私の一番大切な人。ほんとに、ここまでしてくれてありがとうね。手厚いご配慮、感謝しかないよ」 お姉ちゃんはスカートの裾をギュッと握りしめ、顔を背けようとした。でも私はその顔を無理やり引き戻した。 彼女は前の席にいる玲司に、助けを求めるような視線を送ったけど――玲司は気づかなかった。 外で誰かに声をかけられたらしく、彼は車を降りて行った。 お姉ちゃんも後を追おうとする。 私はその手首をつかんで、逃がさなかった。 「逃げるつもり?」 冷たい声で言い放つ。 「でも、思い通りに運んでるんじゃないの?私が結婚前に『真実』を知って、自ら婚約破棄。そのあと、あなたが晴れて本命の座に―― 自分からバラすくらいだし、私が目の前で見たって、もう怖いもんないでしょ?どうせ結果は同じだもんね?」 お姉ちゃんはもう抵抗しようとせず、唇を噛んで、私を見返してきた。 私は、静かに、でもはっきりと告げた。 「私がサブ垢で玲司を試したって知ってて、ここに顔出すなんて――要するに、私が何を知ったか確かめたいんでしょ? だったら、はっきり教えてあげる。 私は――玲司と結婚する。彼と一緒に生きていく」 お姉ちゃんの顔に浮かんだ驚きの表情に、私は皮肉な笑みを浮かべた。 「チャラ男が更生するなんて信じられないんでしょ?私も同じ。信じてないよ。 だってさ、財閥系のボンボンで、一途な人なんて見たことある?浮気の一つや二つ、デフォでしょ? その覚悟もなくて、玲司と結婚するわけないじゃん。 ……でさ。お姉ちゃん、あんた……本気で彼のこと、好きになっちゃったんだよね? でもさ、玲司って、ほんとうにあんたを特別扱いしてた? せ
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第5話
優雅なピアノの旋律が、空中庭園にやさしく響き渡る。 花のアーチの前で、玲司がオーダーメイドのタキシードを身にまとい、私をまっすぐに見つめていた。 私は彼の腕にそっと手を添え、一歩ずつ、満開の花に彩られた舞台へと歩みを進めた。 花びらが舞い、蝶が空を漂い、拍手の波が会場を包み込む。 司会のオープニングのあと、玲司は予定外のスピーチを始めた。 それは十数分にも及ぶ長い愛の告白だった。 私は見ていた。 彼の顎がほんの少し震え、手のひらがわずかに汗ばんでいたことを。 最後には目を潤ませ、声もかすれていた。 彼は、私たちの出会いの日を語り、恋に落ちた瞬間を回想し、今まで過ごしてきた一つ一つの記憶をたどっていった。 ……けれど。 私の脳裏に浮かんでいたのは、あの夜、露天のバーで聞いた彼のあの言葉だけだった。 「仕方ないから、代わりに妹で手を打ったってわけ」 涙が頬を伝った瞬間、玲司は私をそっと抱きしめた。 彼の胸からは、ドクンと激しい鼓動が響いていた。 ……きっと、彼は本当に緊張していて、そして本当に、幸せだった。 そう、彼は私を愛している――それは、たぶん、嘘じゃない。 けれど彼は、私を裏切った。 その両方が、矛盾したまま、今もそこに存在していた。 やがて司会が式の一旦の終了を宣言する。 夜の誓いのセレモニーが、最終演出として控えていた――リハーサルとは違う流れだった。 玲司は不思議そうに司会を見たけれど、 私はそっと彼の袖を引き、小声で言った。 「私が変更したの」 そして夜。 満開の花に囲まれ、光の海に包まれたその場所で―― 私は玲司の期待に満ちた視線を真正面から受けながら、はっきりと告げた。 「……私は、誓えません」 会場が静まり返った。 司会は一瞬、言葉を失い、招待客たちは息を呑んだ。 玲司の目から、幸福の色が一瞬で消える。 そして、それは怒りへと変わった。 彼は私をにらみつけた。 私は、ただ静かに――そのまなざしを真っすぐに受け止めていた。 午後七時ちょうど、チャイムが鳴る。 天井のライトがパッと消え、遠くの噴水に仕込まれたライトショーが始まる。 七色の光が交差して、夜空に広がり、まるで夢のように鮮やかな輝きを放っていた。
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第6話
「この式を、心血注いで完璧にやり遂げること。それが私にとって一番大事だったの」 私は微笑みながら、ゆっくりと話を続けた。 「玲司、気づいてなかったの?今日のカメラマンたち、あんたのこと全部フレームから外してたわよ。 動画の編集は、自分でやるから問題ないけどね」 玲司の顔から、見る見るうちに血の気が引いていく。 唇を固く結び、まっ黒な瞳で私をにらみつけるように見据えてきた。 その目は、まるで私の心の奥を無理やりこじ開けようとするかのよう。 「……まどか、これはつまり、俺と別れるってことか?」 私は一度、深く息を吸って、彼の視線をしっかりと受け止める。 「さっき私は望まないって言ったよね?それが答えだよ」 玲司は一瞬、言葉を失ったように黙り込む。 やがて、かすれた声で呟いた。 「まどか……よく考えろ。俺を手放して、あんたがもう一度『これ以上』の男に出会えると思ってるのか?」 私はふっと息を漏らして、肩をすくめるように笑った。 「……なんでわざわざ探さなきゃいけないの? 私にはお金もあるし、顔もある。頭も悪くない。誰かに頼らなくたって、一人で十分、幸せに生きていける。 男が結婚で自分の価値を証明する必要がないなら、女だって、結婚で人生の意味を決められる必要なんてないでしょ」 玲司の表情が、どんどん固くなっていく。 下顎がぐっと引き締まり、あの整った横顔に張りつめた冷気が宿った。 ホテルのライトが彼の肩に落ちて、まるで霜でも降りたみたいに見えた。 「まどか……後悔すんなよ」 「私は、後悔なんてしない」 私は背筋を伸ばし、高いヒールの音を響かせながら、大理石のフロアを堂々と歩いて去っていった。 ……だけど、涙だけは――勝手に、こぼれていた。 その後、私は別の街で三日間を過ごした。 スマホは電源を切って、誰からも連絡が取れないようにして。 ただの自分だけの時間。誰にも邪魔されない、現実から逃れた三日間だった。 ホテルを出たとき、現実感はまるでなかった。 夢の中を歩いてるみたいに、足元がふわふわしていた。 私はタクシーに乗って、玲司の別荘へと向かった。 庭に着いた瞬間、視界に飛び込んできたのは――無惨に引き裂かれたブーケの残骸。 中に入ると、さらにひどかった
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第7話
「まどか、俺たちの子どもができたら、きっとお前も離れたくなくなるよ。 だから……一緒に、子どもを作ろう。ね?」 その言葉を聞いた瞬間、全身が凍りついた。 彼の体が私に覆いかぶさってきたと同時に、私は必死に身を捩った。 「九条様?」 不意に、外から男の声が響いてきた。 「九条様?どこですか?早く出てきてください、奥様が電話かけまくってますよ!」 声の主は、あの小曽根だった。 玲司の動きが一瞬止まる。 その隙を逃さず、私はありったけの力で玲司を突き飛ばし、身体を抜け出させた。 裸足のまま、冷たいフローリングの上を全力で駆け出す。 ドアを開けた瞬間、小曽根にぶつかっても構わず、そのままリビングへ。 後ろを振り返って、玲司が追ってきていないことを確認してから、 私はスーツケースをつかんで、大急ぎで玄関を飛び出した。 車に飛び乗り、アクセルを踏み込む。 何百メートルも一気に走ってから、ようやく速度を落とした。 ……本来なら、今頃は新婚旅行の真っ最中だった。 式の準備のため、会社には一年間の長期休暇を申請していたし、 式のあとには、さらに二ヶ月のハネムーン休暇まで控えていた。 全部、台無し。 そして今は、ゴシップ好きな野次馬たちがネット中に溢れていて、 仕事に逃げることすらできない。 だから私は、決めた。 一人で旅に出よう。 その前に。 私は、両親の眠るお墓へ向かった。 石碑の前に立ち、私は静かに語りかける。 「……ふたりが、式の現場にいなくてよかった。 だって、あんな場面を見たら……きっとすごく、悲しんでたよね。 もし、あのときお父さんとお母さんの顔を見てたら――私、悔し涙を堪えられなかったと思う」 ……そのときだった。 私のすぐそばに、ふいに人の気配が増えた。 びくりとして振り返ると―― そこにいたのは、玲司だった。 一瞬で、血の気が引いた。 脚がふらついて、そのまま倒れそうになる。 私の様子に、玲司も一瞬驚いたようだった。 けれど彼は目をそらし、小さな声で言った。 「……あの日、強引にしたこと……本当に、悪かったと思ってる。 この数日、ちゃんと考えた……俺がどれだけ最低だったか。 だから……ちゃんと、話をしようと思
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第8話
小曽根の声は焦りに満ちていた。 「お願いです、彼の様子を見に来ていただけませんか?」 「……今、スピーカーモードにしてるでしょ?」 私が問いかけると、小曽根は一瞬黙り、やがてばつが悪そうに答えた。 「すみません。はい。九条様、ずっと隣にいます」 私は静かに、けれど冷たく言い放った。 「玲司。私たちはもう、終わったの。 今さらそんなことをされても、気持ちは戻らない。裏切りは裏切り。永遠に許せないわ」 電話越しに、激しい呼吸の音が聞こえてきた。 その直後―― 小曽根の声が急に高ぶった。 「綾瀬さん!それはあまりに酷すぎます! 九条様は今、生死の境をさまよってるんですよ? 結婚式の日、あんな騒ぎになって九条家はすごく不満でした。 でも彼は全部、あなたのためにかばったんです!後先も考えずに! ケガをしたまま、あなたを探しに行って、それなのに無視して…… 今、ICUにいるんです!それなのに……それなのに、あなたは――」 私は、喉が詰まるような気持ちで、絞り出すように言った。 「もし彼が本当に私を愛していたなら、私の姉と関係を持ったりしなかった。 それに、あなたも――助けるどころか、見て見ぬふりしてた。同罪よ。 どっちも……最低」 「綾瀬さん……っ!」 小曽根の呼びかけを遮るように、私は電話を切った。 スーツケースを引きながら、搭乗ゲートに向かう。 そのまま、私はパリ行きの飛行機へと乗り込んだ。 その後の2ヶ月間、私はヨーロッパ中を旅して回った。 セーヌ川の川辺を歩き、バチカンの芸術の殿堂に酔いしれ、ヴェネツィアの水路を抜け、アルプスの雪山に登った。 ただひとりで、誰にも縛られず、自由に旅する時間は、私にとってなによりの癒しだった。 地中海の太陽に焼かれ、少しだけ肌が黒くなったけれど―― 心からの笑顔が、自然と浮かぶようになっていた。 帰国後、私は本格的にジュエリーデザインに打ち込んだ。 自分のアトリエも開いて、忙しくも充実した日々が始まった。 時々、シャンパンバーで軽く飲んでいると、玲司の噂が耳に入ってきた。 彼は昔の暮らしに戻り、夜ごとパーティに明け暮れているらしい。 日替わりの令嬢と過ごし、会社の仕事はすべて秘書に丸投げ。 サーキット
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第9話
黒いコートを纏った背中は、それでもまっすぐに立っていた。 その姿は松の木のように凛としていて、ただ、背後にある気配は異常に冷たかった。 眼差しは獰猛で、まるで嵐の前の静けさ。 その沈黙が逆に恐怖を煽った。 「全員出ていけ!」 玲司の怒声が部屋を震わせた。 私はすぐに立ち上がり、出口に向かった。 背中ではガラスの砕ける音と、父親の怒鳴り声、母親のすすり泣きが交錯していた。 何度も何度も、平手打ちの音が響いた。 母親の手が玲司の頬に振り下ろされるたび、彼はただ唇を噛み、顔をゆがめながら耐えていた。 「出てけ……全員だ……誰が俺に勝手に会わせに来いって言った!俺は誰にも会いたくない!」 玄関先で私は立ち尽くしたまま、家族の崩壊を静かに見つめていた。 「玲司」 私の声が、ふっと空気を変えた。 まるで時間が止まったように、リビングに沈黙が走る。 玲司の両親が同時に私を振り返った。 玲司はドアに背を向けたまま、彫像のように動かない。 その黒髪は乱れ、顔の片側には赤い腫れが浮かんでいた。 「もう、お母さんをこれ以上傷つけないで。 あなたの幸せを祈ってる……どうか、元気で」 二年後、見知らぬアカウントから友達申請が届いた。 仕事柄、知らない人でも基本的にフレンドリクエストは受け入れる主義だった。 先にこちらから挨拶のメッセージを送ったが、相手からの返事はなかった。 アイコンは一匹の気怠そうな猫。 性別も年齢もわからない。 不審に思ってプロフィールを開こうとしたとき、一通の電子招待状が画面に表示された。 タイトルにはこう書かれていた。 【鹿田隼人(しかだ はやと)&綾瀬桜のロマンティックウェディング】 開いた瞬間、桜と見知らぬ男性が寄り添う写真が表示された。 彼女は花のように笑っていた。 あの会社の年次パーティーで、新人賞を掲げてステージに立ったときの彼女を思い出すような笑顔だった。 画面をスクロールすると、ふたりの恋愛の記録が綴られていた。 去年出会い、一年間の交際を経て結婚に至ったという。 どの写真も、桜は本当に幸せそうだった。内側から滲み出るような、あたたかい喜びに満ちていた。 その幸福感は、見ているだけで伝染するほどだった。 彼女の夫は堂
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第10話
彼女は展示台の前に立ち、真剣な表情で出品作を整えていた。 清楚な横顔、透き通るような肌、華奢なシルエット。 地味なオフィス服に、少し乱れた髪――それなのに、目を離せない何かがあった。 そして気づいた。彼女は、俺の元カノに似ていた、あの、俺と同じように浮ついた心を持った女。 最初はただのスタッフだと思った。 だが、隣にいた運営のスタッフが驚いたように言った。 「あれが綾瀬まどかさんですか。いま業界で注目されてる若手デザイナーで、あの安森章之(やすもり あきゆき)先生が唯一弟子入りを許した女性なんですね」 耳を疑った。 宝飾デザインについて詳しいわけじゃないが、安森章之の名前くらいは知っている。 あの頑固で有名な泰斗が、しかも女弟子を取ったと? 「どうやって弟子になった?」 「天賦の才と、諦めない精神力で口説き落としたらしいです。発想が新しくて、作品の方向性もすごく独特なんですよ」 話してるうちに、彼女の体がふらりと揺れた。 どうやら連日の作業で限界が来ていたらしい。 俺はとっさに駆け寄り、崩れ落ちそうな身体を支えた。 その軽さに驚いた。まるで羽根みたいだった。 額には細かい汗が浮かび、素肌の白さが一層際立っていた。 彼女はぼんやりと俺を見上げた。 あの透き通った眼差しが、一瞬で心臓を撃ち抜いた。 何も考えず、そのまま病院に連れて行った。 診断は過労。医者はすぐに休養を取れと警告した。 そのあと、俺はなんとか彼女の連絡先を手に入れて、食事に誘った。 最初の数回は応じてくれた。 だが、だんだんと彼女は俺を避けるようになった。 正直、不可解だった。 俺の周りには、権力目当てで擦り寄ってくる女ばかりだった。 けれど、まどかは違った。 むしろ、距離を取る彼女の態度が、俺の興味と狩猟本能を一層煽った。 本気で彼女を口説こうと決めた。 計算なんかじゃなく、真心を届けようと、心からそう思った。 なのに、気づけば俺の方が本当に彼女にのめり込んでいた。 ある日、彼女がデザインコンテストの準備で三日間連絡が取れなかった。 あのときの焦りと不安――初めて「気が気じゃない」って感覚を知った。 地下鉄で倒れてないか、変な奴に声かけられてないか、誘拐とか……最悪のシナ
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