私を捨てた夫は、すべてを失って後悔する「奥様、この前ご覧になっていたピンクのバーキンが入荷いたしました。ご主人様からご指定いただいていたお色ですので、いつでもお受け取りいただけますよ」
エルメスの担当者から弾んだ声でそう告げられた瞬間、私はソファに座ったまま、手にしていたリモコンを思わず強く握りしめた。
ピンク?
そんなはずはない。私が欲しいと何度も口にしていたのは、ショーウィンドウの中でひときわ目を引いていた、あの鮮やかなオレンジレッドだった。
半月ものあいだ、何度も彼に話していたのに。
「……本当に、ピンクなんですか?」
喉がかすかに詰まりながら問い返すと、担当者は不思議そうでもなく、はっきりと言った。
「はい。ご主人様が、いちばん柔らかな桜色のピンクをご希望だと、念を押されていました」
電話を切ったあと、私は夫に確認しようと立ち上がった。
けれどその拍子に、書斎の机の下に置かれたままの未開封の荷物につまずく。
見覚えのあるロゴ。
それは、彼がこれまで何度も私に贈ってくれた高級ランジェリーブランドの箱だった。
なぜか胸騒ぎがして、私はその箱を拾い上げる。
リボンをほどき、包みを開くと、中から現れたのは黒いレースのブラジャー。タグはまだついたままだった。
何気なく、サイズ表記に目を落とした瞬間――
全身の血の気が一気に引いた。
B75。
私はこの十年間ずっと、C70だというのに。