宿敵の子を宿したら、元夫が壊れた夫の宮城瑛人(みやぎ えいと)は天才ピアニストだが、その偏執ぶりにおいてもある意味天才だった。私への執着は、もはや病的と言えるほどだった。
結婚して八年。私は仕事を持たず、家中の隅々まで監視カメラが仕込まれていた。知らない男と一言交わすことさえ許されない。
そんなある日、私は彼が絶対に触らせてくれなかった金庫の中に、十年分の誕生日プレゼントを見つけてしまった。
どのカードにも、たった一人の名前が刻まれていた。
「愛しき夏見へ」
霧島夏見(きりしま なつみ)。それは、瑛人の少年時代の初恋の人だった。
瑛人はプレゼントを奪い去り、その瞳を暗くして私を睨みつけた。
「死んだ人間のことに、いちいちこだわる必要はないだろう」
彼は冷たく言い放つと、私の顎を掴んで無理やり顔を上げさせた。
「それより、お前、今日の宅配業者を一瞬でも見つめたのはどういうことだ?」
だが、その直後、彼の秘書がこっそり送ってきた写真が、私の心を抉った。瑛人が、ある女性を抱き寄せ、涙を拭っている。その優しさは、まるで壊れやすいガラス細工に触れるかのようだった。
その女性は、夏見に酷似していた。
私は暗闇の中でずっと座っていた。
その時、突然、スマホの通知音が鳴り響いた。
【昨夜は興奮しすぎた。胸元のキスマーク、ちゃんと隠しとけよ。旦那さんが見たらマジでキレるぞ?】