胸に残る一編を選びたいなら、まず自分の感情の重心を探すのがおすすめだ。読後にどんな感覚を持ち帰りたいかを基準にすると、
オムニバスの海から一本をすくい上げるのがずっと楽になる。私は短編集を手に取るとき、まず各話の冒頭だけでなく終わり方に注目する習慣がある。序盤でぐっと引き込まれる作品も好きだが、やはり締めの余韻が強い話ほど“満足度”が高いことが多かったからだ。
次に考えるのはテンポと情報量のバランスだ。短い話で詰め込みすぎていると読後に消化不良を起こすし、逆に冗長な話だと作品集の中で孤立してしまうことがある。私はいつも中くらいの長さで、テーマが明確に見えるものを優先する。登場人物の内面変化が一目で分かる話か、または設定の一発ネタで勝負する話かを見極めると失敗が少ない。特に登場人物の一挙手一投足が物語の核になっている話は、短編ならではの密度があって満足感が高い。
最後に一つだけ実践的なコツを。気になる話を一つ選んだら、その次に“対照的”なテイストの話を読むことを勧める。たとえば情緒的な人間ドラマを選んだなら、その次は皮肉の効いた社会短編や奇想天外なSFを挟む。そうすることで一編目の良さが相対的に際立ち、満足感が倍増することが多い。私はこのやり方で何度も短編集との相性を当ててきたし、読む喜びが何倍にも膨らむのを楽しんでいる。