宣伝戦略を練るとき、まず考えるのは“この
オムニバスが読者のどの感情のスイッチを押すか”だ。僕は過去に複数の読者コミュニティで企画を回してきて、物語の寄せ集めだからこそできる見せ方があると確信している。たとえば、収録作同士に共通するテーマやモチーフを抽出し、それを軸にした“テーマ別ガイド”を作る。オンラインでの連載風ティーザーや、各短編の冒頭数ページを順番に公開していくことで、断片が積み重なって全体像への興味を生む。これは単巻小説の宣伝とは違い、断片的な好奇心を刺激するのに向いている。
次に物理的な装丁や特典を利用する方法だ。オムニバスはしばしばコレクション感が強い媒体なので、著者ごとの短い寄稿や背表紙でつながるアートワーク、あるいは未公開の短いあとがきや書き下ろしを限定版に付けると、コアな読者層の購買欲は高まる。僕は過去に限定小冊子を付けた企画で、通常版だけでは動かない層から反応を引き出せた経験がある。さらに図書館向けのプレスリリースや大学の文学サークル、専門誌への寄稿で、作品の学術的・文化的価値をアピールするのも有効だ。
最後にプロモーションのタイミングとパートナーシップ。刊行直前は短期集中型の露出を意識しつつ、刊行後は読者の声を拾って長く回すことが重要だ。たとえばSNSで読者の感想を集めて引用し続ける、または短編ごとに異なるゲストを呼んだ朗読会をシリーズ化することで、話題を持続させることができる。僕はかつて『短編集オムニバス』の翻訳企画で、翻訳者と編集者の対談を連続公開し、読者の理解を深めながら売上げを伸ばした。要はオムニバスの強みである多様性を前面に出し、断片をつなげる仕掛けと物理的な魅力を併せて提示することが鍵になると思う。