次の春は清らかにこの街で「世紀の美女」と噂される女がいると聞けば、誰もが決まってこう笑った。
「美人なだけじゃなくて、心も広いのよ!旦那の元カノが産んだ子供を二人も育ててるんだから!」
だから私・黒澤凛(くろさわ りん)が離婚を切り出した時、誰一人として本気にしなかった。
黒澤壮介(くろさわ そうすけ)は目も瞬かせず、無造作に小切手を投げてよこした。
「騒ぐなよ。好きなものでも買ってこい」
長男の黒澤悠斗(くろさわ ゆうと)はゲームの画面から目を離しもしなかった。
「親父を煩わせんな。出ていくなら早くしろよ、どうせ嘘だろ」
次男の黒澤蒼(くろさわ あお)はすぐに実の母親に電話をかけた。
「あの意地悪なおばさんが出ていくみたい。ママ、準備しといて!」
使用人たちまでもが首を振り、「またいつものはったりでしょう」と私を諫めた。
それでも私は、悲しくも怒りもしなかった。
ただ静かに、既に暗記してしまった電話番号を押した。
「文江様、十年のお約束の期日が参りました。妹の命を救っていただいた恩、これにて返し終えました」