一曲目を再生した瞬間、目の前に物語が広がるような感覚にとらわれた。『
雨の中の欲望』は音だけで情景を描く力が強くて、どの曲も場面ごとの空気をそのまま切り取ったように聴こえる。僕が特におすすめしたいのは、まずアルバムの基調となっている『雨の主題』だ。メロディがしなやかに波打ち、弦楽器の絡みが感情の揺らぎを丁寧に追ってくる。主題として作品全体の色合いを決める曲なので、これを軸に他の曲を聴き返すと発見が多い。
続けて挙げたいのが、テンションと切なさを同時に抱えた『傘のワルツ』だ。軽やかなピアノのフレーズが雨粒のリズムと重なり、背景には控えめなパーカッションが映画的な緊張感を作る。劇中では一見穏やかに見える場面を内側から揺さぶるように機能していて、僕は場面転換や心情の浮き沈みを聴き取るのに何度もこの曲に頼った。もう一つ外せないのが、主人公の欲望や複雑な感情を象徴する『追憶のアリア』で、声とも器楽とも取れる旋律が胸に残る。ここはソロ楽器が中心で、余韻の作り方が抜群に巧みだと感じた。
アクションやクライマックス寄りの勢いを求めるなら『逃走』が燃える。リズム隊の刻みが速く、シンセの低域が背後で押し出すような効果を与えるので、画面の動きが頭の中で再現される。一方で終盤の『エンディング・レイン』は、すべてを柔らかく包み込むような温度を持っている。ここではテンポが落ち、和音の広がりが余白を生むため、物語の余韻をじっくり味わいたいときに最適だ。個人的にはこの曲で聴き手としての気持ちが整理される感覚があって、プレイリストの最後に置くと余韻が際立つ。
どれから聴くか迷ったら、アルバム冒頭の『雨の主題』→感情の揺れを追う『追憶のアリア』→緊張感を高める『逃走』→落ち着かせる『エンディング・レイン』の順で流すと、劇的な流れを音だけで追体験できる。僕はこのサウンドトラックを繰り返し再生して、場面ごとの音作りや楽器の使い分けを楽しんでいる。曲ごとの細かいニュアンスに気づくたびに新しい発見があるから、じっくりと時間をかけて聴いてみてほしい。